企業の価値と「いい会社」とは?

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2024年04月05日

  • コーポレート・アドバイザリー部 主席コンサルタント 中島 尚紀

昨年よりコンサルティング部門の部長を務めている。M&Aや持株会社化、アクティビスト対応、資本戦略、統合報告書の作成、脱炭素を始めとするサステナビリティ関連開示等、経営部門への様々な支援を通じ、企業の価値向上をお手伝いしてきた。新たな分野で1年を過ごし、今一番重く、かつ面白く感じているのは、「企業価値の評価は実に難しい」ということである。

企業価値、もしくは事業価値の算定には、保有資産や想定されるキャッシュフロー、類似企業の株価等を元に、いくつかの手法が利用されている。その際には、成長戦略や事業環境の変化、さらにリスクなどを踏まえて価格を評価する。M&Aの実務では、ビジネスやリスクの詳細分析結果や買収時の条件を加味して交渉し、価格が変動する事も一般的である。

この評価結果は、主体により大きく変化しうる。これは、企業・事業が保有するリソースや成長力の評価が異なる事による。事業を組み合わせたシナジーや新たな資本の投入による事業拡大の想定、また保有する有形・無形資産の有効活用を加味し、企業・事業価値を現在よりも高く評価する主体が現れうる。ポートフォリオ経営により企業を成長させるという最近の傾向を踏まえても、「安く評価する」主体から「高く評価する主体」へ企業や事業が移転していく事はごく自然に見える。

株式市場でも企業が開示する情報を基に、投資家が同じような考え方で企業価値を評価し株価が形成される。一方で本来の発揮できる価値に比べ、割安と評価されている企業も少なくはない。自社の成長戦略を正しく理解されていない場合もあるが、企業価値に繋がらない余剰な資産を保有している、ビジネスの成長に向けた投資が進んでいない、正当な配当が行われていない、などの場合もありうる。投下資本やリターンに見合う経営戦略・ビジネスプランを経営陣が投資家に示せていない、とも言えるだろう。

開示がうまくできていない事も、企業価値が下がってしまう一つの要因であろう。特に非財務情報と言われる分野、例えば人的資本や環境対策、DX戦略などを投資家に企業価値と認識してもらうのは容易ではない。企業価値との連関性を継続的に分析しモデル化できている企業は限られている。自社の存在意義やあるべき姿を起点に、どういった企業を作りそれを価値創造に繋げていくのか、という事をわかりやすく丁寧に説明していく事が必要になる。

だからこそ、価値の「裁定」を行う主体としてアクティビストも存在する。割安な企業の株式を購入した上で経営戦略、さらには経営者そのものを変えるべく圧力をかける。結果的に本来の企業価値を発揮できれば大きなリターンが得られる、というのはある意味理にはかなっている。従ってアクティビスト対応は経営の維持を図る対策から、企業価値向上のためにどのような具体的な策を採るか、さらに本来の企業価値をどうやって幅広い投資家に伝えていくか、という活動に変化してきている。これはあるべき経営者の姿を目指す、という感じにもとらえられる。

ところでこの1年、面白く感じている事がもう一つある。この業界に長年勤める人は、企業の業種や規模を問わず、「いい会社」という表現をよく使う事である。企業価値向上を目指し、経営陣が正しい戦略を推進しようとし続ける企業が「いい会社」、ということなのだろう。このような「いい会社」を支援し、増やしていく事が、我々の使命だと思っている。

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中島 尚紀
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