財務リスク(KAM)の開示がもたらすインパクト

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2021年07月27日

  • コーポレート・アドバイザリー部 主任コンサルタント 吉田 信之

2021年3月期決算から、監査報告書上に「監査上の主要な検討事項(Key Audit Matters:KAM)」についての記載がなされることとなった。ここでKAMとは、「財務諸表の監査において、監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項」と定義されるが、監査人が監査を実施するにあたりどのようなことに焦点を当てたか、主として何を検討したかに関する内容が、監査報告書において記載されることとなったのである。このことは、監査の透明性向上に加え、情報伝達手段としての監査報告書の価値向上にも寄与することになると思われる。

これまでの会計監査人の監査では、専ら「財務諸表が適正に開示されているかどうか(=財務諸表の適正性)」にフォーカスされ、そのプロセス(過程)で検出された監査上の検討事項や課題を開示することは、かえって投資家に誤解を与える(ミスリードする)恐れがあること等を理由に開示されてこなかった。また、様々な時間的、物理的制約のある財務諸表監査において、監査人に過度な責任を負わせるべきではないという観点も、財務諸表の適正性にフォーカスした監査が実施されてきた背景といえる。

しかし、古くは米エンロンの破綻など、粉飾決算等に起因する上場企業の倒産等が相次ぎ、投資家に多額の損害が発生するような事案が起きるたびに、「なぜ監査人はこのことを情報として指摘してくれなかったのか」といった批判を浴び、投資家が監査人に求める役割とその実態との期待ギャップが課題となってきた。その意味で、今回のKAM記載の強制適用は、このような期待ギャップの解消に向けた大きな第1歩であるといえよう。

日本企業の2021年3月期決算におけるKAMの記載事例を実際にみてみると、過去に実施した大型M&Aに伴って生じたのれんや、将来の事業損失に備えた引当金等に関する記載が多い印象である。これら開示は、投資家にとって追加的な情報提供として有用なものといえるが、投資家が最も恐れる粉飾決算やそれに伴う大型倒産の回避、もしくはその抑止力として、このKAMの記載が有効に機能していくかは、今後の実務慣行の形成・定着を待つことになろう。日本の監査制度が期待ギャップ解消に向けて打った今回の大きな一手が、今後どのような効果を現していくのか、引き続き注目していきたい。

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吉田 信之
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