変化しつつあるフィリピンの雇用環境

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2019年02月25日

  • 経済調査部 研究員 中田 理惠

かつてフィリピンはインフラの整備不足や政治情勢の不安等により外国からの投資を呼び込めず他のアジア諸国に対して成長で後れをとってきた。その結果、工業化が大きくは進展せず、国内の雇用機会が不足した。このため、海外への出稼ぎが増加し、現在では国民のおおよそ10人に1人が海外で出稼ぎ労働を行っている。彼らからの仕送り金はGDP比で約9%を占め、内需拡大の源泉となりフィリピン経済の支えとなってきた。その一方で、優秀な人材の海外流出が経済発展における課題となってきたことも事実である。

しかし状況は変化しつつある。2010年に就任したアキノ政権以降、政府はインフラ整備や治安の改善に注力することで、外資の呼び込み、ひいては工業化による国内の雇用機会創出と輸出拡大を目指してきた。2016年以降のドゥテルテ政権ではインフラ整備がさらに加速している。

こうした取り組みはフィリピンの雇用情勢を変化させつつある。国内の失業率は2010年1月の7.3%から2018年10月には5.1%まで低下した。産業別の労働者数を見ると2010年ごろから賃金水準の低い第一次産業は減少し、より賃金水準の高い第二次産業における雇用が増加している。内訳を見ると、建設業の増加が目立ち、雇用の変化はインフラ整備による建設需要が主導しているようだ。さらに、従来年間の伸び率が平均して1%程にとどまっていた製造業の雇用は、2016年以降平均して年間3%ずつ増加している。こうした変化により雇用全体に占める第二次産業の割合は2009年末の14%から2018年末には19%まで拡大した。

インフラ環境の改善という下準備は着実に進められている。今後、工業発展、雇用環境改善という好循環を生み出すことができるか、変わろうとしているフィリピンに引き続き注目していきたい。

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