従業員持株会とつみたてNISAの類似点

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2018年08月15日

  • 土屋 貴裕

東京証券取引所によれば、従業員持株会に加入している東証上場企業の従業員数は増え、2016年度は272.0万人となった。持株会が保有する株式の時価も増加している。調査対象企業の時価総額全体に占める持株会保有分の比率は1.0%であり、同年度の株式分布状況調査と比較すると、損害保険会社の1.2%や、その他金融機関の0.7%に比肩する。もっとも、加入者数の増加は対象となる上場企業の数が増えている面があり、保有時価の上昇も市場の株価上昇による部分が大きい。時価総額に占める持株会保有分の比率は均せば横ばいであり、持株会加入者は、単元ごとに引き出しているか、株価上昇時に売却しているとみられる。

企業にとって、持株会制度は従業員の資産形成としての福利厚生であり、1%前後の株式を保有してくれる安定株主作りと言える。購入金額が頻繁に変更されないことから、株価が下がれば相対的に買う金額が大きくなり、逆に上がれば相対的に購入額が小さくなる(ドルコスト平均法)。株価上昇時は、加入者にとって売却タイミングということになることから、株価のボラティリティを抑制する要因だと考えられよう。企業は持株会制度に積極的になっているとみられ、企業による奨励金の平均支給額は増加傾向である。拠出金1,000円あたりの奨励金は、1999年度の64.53円から2016年度に80.90円に、つまり会社補助が約6.5%から約8.1%に増えたことになる。

従業員にとって持株会を経由して株式を保有することは、勤務先が破たんした場合に、仕事と資産を同時に失うリスクをとっていることになるが、企業の成長が自らの資産の増加に結び付くことから、勤労意欲の向上につながる面があろう。企業による奨励金という優遇があり、必要に応じて売却することも可能である。複利効果を念頭に置くならば、拙速な売却は避けた方がよいことになるが、売却という選択肢があることは、ライフステージに合わせた資金ニーズに対応できることになる。保有株の売却タイミングを探ることは、株式市場の動向をチェックするという、資本市場に接する機会かもしれない。

公務員など勤務先が株式会社ではない場合には、制度自体があり得ないが、ドルコスト平均法を実践する職場積立には、職域単位のつみたてNISAもある。つみたてNISAには税制上の優遇があり、持株会のように売却することも可能であるなど、似通ったところも多い。職域におけるつみたてNISAは、持株会が導入できない職場においても、雇用主が制度を整えるだけで従業員(職員)への福利厚生となり、積立投資を通じて資本市場に接する機会となる。

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