地方創生とスポーツ振興

~第二のカー娘は見つかるか?~

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2018年03月29日

  • コーポレート・アドバイザリー部 主席コンサルタント 橋本 直彦

冬季のピョンチャン(平昌)・オリンピック/パラリンピックが閉幕した。今回の平昌オリンピックにおいて日本は13個のメダルを獲得し、冬季オリンピックとしては最多だった長野大会の10個を超え、過去最高となった。また、パラリンピックでも10個のメダルを獲得し、2010年のバンクーバー大会以来の二桁に達した。開催直前、このスポーツの祭典が政治の駆け引きの場として使われた印象もあり、個人的には違和感を覚えたが、終わってみれば、フィギュアやスピードスケート、カーリング等、大いに賑わった。

いつもながら、4年に一度のこの盛り上がりは、一過性に終わらせたくないと思う。そのためには、「選手の育成」と「サポート体制の維持」に本腰を入れていく必要があろう。

特に冬季オリンピックについては、種目の特性からか、主役である選手たちは北国の出身者が多い。例えば、今回のオリンピックで話題になった女子カーリングのメンバーは、北海道北見市常呂町の出身者で占められている。年少の頃から地元でカーリングの練習を重ねてきたわけだ。つまり、カーリングという“ややマイナーな競技”が半年近く雪と氷に覆われる地域の特性にマッチし、有能なプレーヤーを育んできたのである。このプロセスは、地方創生の視点から見ると非常に興味深い。

北見市の場合、ここ数年人口は12万人程度で推移しており、若干の減少は見られるものの“過疎化”の傾向までは出ていない。『しごと』すなわち、地域における雇用も何とか確保できているのだろう。そこに、今回LS(Loco Solare)北見の活躍に触発された観光面(スポーツ・ツーリズム)の集客も見込んで、『ひと』が集まり、『まち』は活性化する。スポーツとのコラボレーションによる地方創生の成功事例となるかもしれない。

そもそも、カーリングは、オリンピック競技の中でも選手と一般人の垣根が低いような気がする。いや、本当はタフなスポーツなのだが“取っ付き易い”のだ。素人目には、スキージャンプで100メートル以上も飛んでいく(落ちていく?)姿、スノーボードのハーフパイプで空中高く3回も4回も宙返りする姿は「異次元の世界」だが、氷上でストーンを滑らすカーリングは、「自分にも届きそうな世界」であり、広く普及する要素を持っているのだろう。

北見市常呂町の例は別にして、一般的には、『しごと』・『ひと』・『まち』の3つのサイクルが上手く機能するケースは稀である。特にスポーツ振興の観点から難しいのは、『しごと』の誘致・確保ではないか。企業や行政にも雇用創出の努力をお願いしたいところである。

しかし、一方で、安定した『しごと』を地方に誘致することができれば、スポーツに取り組む人口が増え、地方活性化の起爆剤になるかもしれない。

また、同時に少々地道な活動になるが、目玉となるスポーツを選定し、第二の“カー娘”を生み出す土壌づくりから考える必要がある。観戦はもちろん実際にプレーして楽しく、できれば、幅広い年齢層で手軽に取り組めるスポーツが良い。「そんなスポーツあるの?」と言わないで欲しい。今はイマイチ陽のあたらないスポーツでも、テレビや漫画・アニメ等の力で一気に形勢逆転もあり得ることは、歴史が証明している。

幸いにして、2018年FIFAワールドカップサッカー・ロシア大会を皮切りに、2019年FIFA女子ワールドカップサッカー・フランス大会、同年ラグビーワールドカップ・日本大会、そして2020年東京オリンピックと、我が国のスポーツ熱はしばらく続きそうな気配だ。今こそスポーツ振興で地方を元気にするアイディアを、皆で考えていこうではないか。

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橋本 直彦
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コーポレート・アドバイザリー部

主席コンサルタント 橋本 直彦