資産形成層への投資普及策として期待される「職場積立NISA」

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2018年03月08日

今年1月に始まったつみたてNISAは、1月末時点の申込件数が主要証券・銀行11社で約38万口座に達したと報じられており(※1)、まずまずのスタートを切った。つみたてNISAの導入時期に合わせ、様々な雑誌やインターネット記事で、つみたてNISAの「長期・積立・分散・低コスト」といったメリットが紹介されたことも一因だろう。

一方、申込件数について盛り上がりに欠けるとの評価も一部ではなされている。単純比較はできないが、従来型NISAが導入されたときの口座数が約490万口座(平成26年1月1日時点)(※2)だったことと比較すると、つみたてNISAにはまだまだ拡大の余地があると言えるだろう。

証券会社の店舗を訪れる顧客はほとんどが60歳以上の高齢者であり、金融機関としても若年層に顧客基盤を拡大していく必要がある。その方法としてつみたてNISAを利用することが考えられる。なぜなら、つみたてNISAは中長期の資産形成手段として有効であり、これから資産を形成していく若年層向きの商品だからである。冒頭の報道でも、つみたてNISAの口座数は20~30歳代の占める比率が52%と、20~30歳代の比率が15%である従来型NISAよりも、若年層の比率が高いことが明らかにされている。

しかし、多くの若年層にとって証券投資は馴染みがない。そのため、日本証券業協会がつみたてNISAのテレビCMを放映したり、動画サイトで「ルパン三世」を起用したつみたてNISAのネット広告を証券会社が放映したりするなど、証券業界では若年層へのアプローチに取り組んでいる。

ただ、つみたてNISAを始めるには、金融機関の店舗を訪問するにせよ、ネット証券で口座開設するにせよ、自分自身でアクションを取る必要がある。投資経験のない若年層にとって、自らそのようなアクションを取ることがハードルとなっていると考えられる。

この点で注目されるのが、会社の職場に金融機関の担当者が訪問して、NISA(つみたてNISA・一般NISA)の勧誘を行う「職場積立NISA」(※3)である。職場積立NISAは、金融機関の担当者が職場を訪問するため、自ら金融機関の店舗に赴く必要がない。会社の福利厚生の一環として導入され、会社を通じてつみたてNISAの契約手続きが可能である。原則として給与天引きの方法(口座振替も可能)で投資信託等を購入することができ、職場で金融機関から投資教育を受けられるというメリットもある。金融機関から見ても、若年層を含む多くの資産形成層の方々に対して、一度にアプローチできるというメリットがある。

つみたてNISAの普及を後押しする金融庁自身も職場積立NISAを導入しており、他の省庁や民間企業にも拡大していくことを目論んでいる。このような取り組みを通じ、投資への関心が高くない若年層にも、資産形成のための投資が普及していくことが期待される。

(※1)2018年2月25日付 日本経済新聞電子版「積み立て投資に勢い NISAやiDeCo、150万口座 若者『手軽さ』支持」
(※2)金融庁「NISA口座の利用状況等について」(2014年6月)
(※3)職場積立NISAは、一般NISAでの利用も可能であり、「職場積立NISA」と表記される。つみたてNISAの導入に合わせ、2017年9月にガイドラインが改正されている。

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 金本 悠希