食の安全確保に向けコスト負担を

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2011年06月28日

  • 長谷川 永遠子
東日本大震災の爪あとは大きく、被災地の農水産物の出荷に深刻な影響が出ている。東京中央卸売市場の産地別取扱実績を見ると、鮮魚、活魚、貝類、海藻といった主要水産物や野菜に、西高東低の傾向が読み取れる。取扱高の大きい鮮魚を例にとろう。東京中央卸売市場の鮮魚取扱数量は地震が起きた3月に対前月比13%減少したが、4月はそれを上回る増加に転じた。一方、岩手、宮城、福島の被災3県合計では3月に前月比59%減、4月は同63%減と落ち込みが続いている。4月の取扱数量を前年同月と比べると、全体では5%減にとどまったが、被災3県合計ではおよそ7分の1に激減した。この間、和歌山、高知、福岡といった西日本で大きな漁港を擁する県は取扱数量を伸ばしている。また、野菜では西日本に加え、中国や韓国など海外からの輸入品も多くなってきた。

寒冷な東北地方では魚も野菜もこれから秋口まで最盛期を迎えるが、今年は例年のように取扱高を伸ばすのは難しいだろう。港や畑、貯蔵設備や輸送インフラの復旧にはなお時間を要する。また、福島の状況も懸念される。政府は基準値を超えた放射性物質が検出された農水産品の出荷や摂取を制限している。消費者の間でも安全・安心な食品を買い求める動きは続くだろう。家族の健康に関わる食の安全について各家庭が敏感になるのは仕方なかろう。想定外の大事故が起きたことで政府や電力会社が混乱を極めたのは理解できるが、正しい情報が十分に入らないと感じれば、国民はより慎重な行動を選択せざるをえず、そこに風評被害が生まれる余地が生ずる。

震災から3ヶ月がたち、食の信頼を回復すべく漁協や農協、各生産者レベルでも放射性物質の自主検査に乗りだすところが出てきた。都道府県では独自に検査を実施し、測定値を公表する動きが広がっている。消費者も自主検査を通じて基準に合致した商品を届ける宅配食材に注目するようになった。これらはいずれもコストがかかることだが、生産者、地方自治体、消費者が等しく負担する覚悟を持たねばなるまい。政府はこうした自主検査の動きを支援し、広げていく役割を果たすべきだろう。安全で高品質であることが日本の農水産品の強みである。十分な情報が得られれば、被災地産品を積極的に購入する支援の輪が生まれるはずだ。今、国民一人ひとりが自らの意思と責任に基づき選択、決定ができる良き市民であることが求められている。

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