復興構想会議に象徴される日本とドイツの違い

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2011年04月19日

  • 水口 花子
4月14日、菅首相主宰の復興構想会議の初会合が開催された。報道によると、首相は会合に先立ってドイツの街並みをイメージしたバイオマス活用などによるエコタウン構想を提示していたようである。しかし、初会合では原発問題を扱わないで欲しいという首相からの要請に構成メンバーが強く反発し、一転して原発問題を議論の対象とすることが合意されるなど波乱の幕開けとなった。

ドイツをイメージした街づくりという話であるが、ドイツでは福島原発の事故を受けいち早く対応。3月14日にメルケル首相が1980年以前に建設された原子力発電7基を一時稼働停止にし、全17基の安全点検を行う考えを述べた。しかし、メルケル首相の迅速な対応にもかかわらず、3月27日に行われた州議会選挙では、メルケル内閣率いる政党は勢力を落とした。4基の原発が稼働するバーデン・ビュルテンベルクにおける州選挙では原発政策が最大の争点となり、脱原子力を掲げる緑の党が躍進し、連立政権を樹立して初の州首相の座を獲得する見込みである。

ドイツをはじめ欧州は温暖化対策に熱心であり、温暖化対策の目標であるCO2の大幅な削減を達成するには原子力発電所は欠かせないとされる。しかし、ドイツの州議会選挙の投票結果は、100年後の温暖化の脅威と今後100年は続くかもしれない放射性物質の拡散の脅威について、現在、国民が考える解の1つである「原子力発電なしでの温暖化対策」を象徴しているように思う。日本でも4月10日投開票の敦賀原発と美浜原発を抱える福井県の知事選、原発のある新潟県柏崎市・刈羽郡の県議会選において原発が争点に挙がったが、いずれも原発容認派が当選しており、住民は原子力発電所の安全対策の強化を前提に共生の道を選んでいる。

明らかであることは、今回の原発事故で、原子力の取扱いに関する安全基準の見直しが行われることである。ドイツは極端な例ではあるが、アメリカをはじめ、スイスや中国も原子力発電所の新規計画については安全性を慎重に確認する方針である。復興構想会議において議論される原発問題についても、今回のような事故が再度起きたときを想定した、具体的かつ実効的なものでなければならない。原発事故が実際に発生しているため、議論を慎重に行いたいという菅首相の考えは理解できるが、原発問題を復興構想会議における議論に全く含めないという考えはいかがなものであろうか。大きな問題であるからこそ、政官民でオープンに話し合い、不安を解消するべく努めるものだろう。

復興構想会議では、エコタウン構想に関しても住民との話し合いを抜きに進めるものでないと至極真っ当な意見が表明された。国には復興のための支援の枠組みおよび方針を提示・検討することが期待されており、ドイツを目指すかはそこで生活する人が決めるのである。

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