新興国投資ブームの行方

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2011年01月31日

  • 長谷山 雅巳
世界的なビジネストレンドは新興国を向いている。これを示す一つの例として、とある識者は、経済的な波及効果が高いFIFAサッカー・ワールドカップの開催国を出していたが、妙に納得してしまった。1990年以降の開催国を順に並べると、イタリア(1990年)→米国(1994年)→フランス(1998年)→日本・韓国(2002年)→ドイツ(2006年)→南アフリカ(2010年)となる。そして、2014年にはブラジルでの開催が予定されており、さらに昨年12月には2018 年と2022 年の開催国がロシアとカタールに決まった。こうして見ると、確かに、2010年を境に、開催地が先進国から新興国にシフトしている

実際、エコノミストの目から見ても、昨年2010年は「先進国経済の低迷」と「新興国経済の好調」という対称的な構図が鮮明化した年だった。当初は、先進国と新興国が共に、金融緩和や景気対策といった政策的に成長を下支えしている状況から脱却することが期待されたが、結果的には先進国が取り残されているのが現状だ。

米国では昨年、夏場以降に景気の二番底懸念が高まったことで、年末にかけて追加的な金融緩和(QE2)や大型減税の延長が決定され、政策的な下支えに頼ざるえない状況となった。欧州では、ギリシャ発の財政危機が南欧諸国やアイルランドに広がり、ソブリン・リスクに対する懸念が燻り続けている状況となっている。一方、新興国は、迅速かつ大胆な景気対策の発動が功を奏する形で、世界金融危機からいち早く回復の足がかりをつけた2009年からの流れを受けて、自律的な成長を確かなものにしたのが2010年の姿となる。

こうした対称的な構図や新興国の姿を誰が想像したであろうか。ただ、新興国躍進の背景の一つには、先進国の金融緩和で生まれた余剰資金の大量流入があることは注意が必要だ。新興国に向かうマネーの背景には、多くの場合、当該国の成長性や良好なファンダメンタルズがあることは確かだが、足元では資金流入の加速に警戒感が高まってきていることも事実だ。いくつかの新興国では、すでに資本規制などの政策対応を適時実施しているものの、当局の思惑通りに行っていないのが現状である。

冒頭で述べたビジネストレンドもそうだが、世界的なマネーの潮流が新興国を向いていることを、今やほとんどの人は否定しないだろう。ただ、短いスパンから見れば、足元の状況は、先進国との対称的な構図が鮮明化したことが、投資家の注目を一気に高めたことで、いわば新興国投資ブームが発生しているようにも捉えられる。

2011年は、米国の景気回復が確かなものになるとの期待が高まる一方で、新興国では逆に景気過熱を押さえ、持続可能な成長を確保するための政策にシフトしていくだろう。インフレリスクを背景とした金融引き締めは、海外からの資金流入を加速する作用もあることから、新興国では資本規制がさらに強化されるかもしれない。このような動向に、世界の投資家は、長期的な観点から冷静な目を持つことが求められよう。こうした意味で、今年は、新興国が単なるブームとしての投資先ではなく、真に有望な投資先と確認するための要の年となるのではないか。

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