地域金融機関の将来

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2010年08月10日

  • 森 祐司
地域金融機関(地方銀行、第二地方銀行、信用金庫等)の預貸率低下のトレンドになかなか歯止めがきかない。信用金庫等の貸出においては、リーマンショック後に導入された「緊急保証制度」などの影響によって、金融危機後の貸出後退が抑制され、貸出金は増加してきたものの、昨年の12月以降に貸出は減少に転じ、再び長期的な下落傾向に戻った観がある。貸出に回らない資金は、余資運用と称して国債を中心とする有価証券運用や、信用金庫であれば信金中金などへの預け金などで運用されることになる。一方、預金については、定年退職者の年金給付金用の口座の開設・指定などにより安定して増加しており、長期的な預貸率低下傾向(裏を返せば預証率の上昇傾向)はなかなか止まりそうにない情勢となっている。

 しかし、地域金融機関には地域への貢献が使命としてあり、地域からの預金を当該地域に貸し出して地域の発展に役立てるという「資金還流性」が求められている。このため、証券投資などの運用は、地域のために役立たないと批判される場合も少なくない。地域金融機関の役職員にしてみると、必ずしも、地域への貸出よりも儲けを優先して証券投資をしているわけではないだろう。やはり地域との共存共栄を望んではいるものの、なかなか貸出が伸びない・伸ばせないというのが実情だと見られる。地域での貸出が伸びないのは、地域金融機関の主たる貸出先である地方の中小企業においてもアジアなどへの企業移転で産業の空洞化が進行し、合わせて高齢化の進行による廃業率の上昇・起業率の低下などで、資金需要の減退が響いているからではないかと見られる。貸し渋りや貸し剥がしなどが指摘される場合もあるが、預貸率低下は一時的な現象ではなく、長期継続している現象である。このためそれらが大きな要因だとも考えにくい。地域金融機関も不良債権化するのを厭わなければ貸出先もあろうが、言うまでもなくそのようなことは許されない。結局、貸出は優良な貸出先の資金需要が力強く広がっていかなければ、なかなか伸びていかないのであろう。

高齢化の進行は今後も継続するであろうし、地方の産業もすぐには活性化しないのであれば、地域金融機関は今後どのようにしていけばよいのであろうか。一つは、道州制の導入をにらんで、近隣の金融機関との提携や統合などで大規模化して営業地盤の広域化を目指すことにあろう。これは事業リスクの地理的分散や新規の貸出先の開拓のほか、規模の経済性を享受して費用効率性を上げられるというメリットもある。同時に、投信窓販等の金融商品サービスをさらに推し進めて、預金にこだわる金融機関経営から軸足を移すことも一考に値しよう。そのためには、金融サービス機関としてのスキル向上や内容のさらなる充実化が必要である。地域金融機関の預貸率の低下は、長期的な構造問題の表象だと見られるが、新たなビジネスモデルの構築には、長期的なビジョンを持って戦略的に行動するしかないように思われる。

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