買収防衛策は「転ばぬ先の杖」

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2009年10月27日

  • 藤島 裕三
わが国企業が買収防衛策(ポイズンピル、ライツプラン)を導入するペースは、2008年の株主総会シーズン直前が3回目のピークで、その後は急速に鈍化している。2009年の上半期も新規導入は20件に及ばず、逆に廃止が同程度に達した模様である。防衛策の導入ブームは完全に一巡して、現在は再評価のステージを迎えていると考えられる。

投資家サイドは従来から防衛策には批判的だったが、ここに来て企業サイドでも「防衛策は本当に必要なのか」「本当に不要なのか」という問いが発せられるようになった。これには「経営体質の強化こそが最善の防衛策」とする不要論、「被買収に備えないのは経営者の怠慢」とする必要論が対峙して、企業内部の議論でもなかなか結論が出ないようだ。

それでは筆者が問われた時はどう答えているのか。「買収防衛策は『転ばぬ先の杖』です」と申し上げている。

株式を上場することは一面、大都会に上京するのに似ている。勝手知ったる地元では、道を歩いていて身に危険を感じることは少ないだろう。しかし大都会は見ず知らずの人間が大量に往来しており、いつ何どき危害を加えられるか分かったものではない。いきなりぶつかって来られて怪我などしては一大事である。杖で身を守りたくもなるだろう。

しかし四六時中、杖なしでいられないような人物がそもそも大都会に出てくること自体、本来はおかしなことではないのか。雑踏に耐えられるよう足腰を鍛え、注意力や判断力を磨き、知識を吸収することこそ、都会人に求められる作法だろう。もちろん一時的に体力が弱っている時などは仕方ないが、速やかに回復に努めて杖を手放すべきである。

ただし長く都会暮らしを続けていると、知らず知らずに敵を作ってしまうかもしれない。自分の常識が通用しない者に出くわすこともある。そのような相手が往来で突っかかってきたら大怪我である。不測の事態に対応するには更に準備を積んで敵に備えるべきだが、なかなか一朝一夕には難しいだろう。それならば杖を持つ必要はあるかもしれない。

だが雑踏を歩く体力は十分にあり、不意打ちに対応する知力もあるのに、相変わらず杖に頼って歩くのは、いささか体裁が悪くないか。「体力に自信ありません」「都会に馴染めません」と喧伝するようなものである。「転ばぬ先の杖」も度が過ぎると不恰好となる。都会人として常識的な体力・知力があれば、街歩きごときに不安を抱くことはないだろう。

それでも杖が手放せない場合はどうするべきなのか。究極的には都会暮らしを見直すことも選択肢かもしれない。

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