マネー還流で高まるコモディティ市場のボラティリティ

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2009年02月16日

  • 山田 雪乃

一本調子の下落基調にあった原油価格は、08年12月に33.87ドルで終止符を打ったかに見えたが、再び30ドル台で調整している。09年明けに一時50ドル台へ回復したのは、米景気対策の発動による景気回復期待に、地政学的リスクが加わったため。しかし、1月20日のオバマ米大統領の就任にかけて高まった景気回復「期待」は早々に消化されてしまった。今後しばらくは、織り込み切れていない「足元の需要減少」への注目が続くだろう。

IMFによる09年の世界経済成長見通しは、08年11月予想の+2.2%から09年1月末予想の+0.5%へ引き下げられた。米国では自動車産業の救済や住宅市場の改善を進めなければならず、資源需要の回復は2010年後半から2011年になるだろう。一方、減産の動きも加速している。中国鉄鋼市場の在庫調整はほぼ終了した模様だが、非鉄金属や原油市場では過剰在庫の解消には至っていない。年央にかけて、需要の鈍化と生産・在庫調整の綱引きが続き、コモディティ市場は軟調に推移する見通しだ。

投資マネーは、米リーマン・ブラザーズの破綻後コモディティ市場から一気に流出したが、部分的に還流の動きが見られている。世界的に金融市場の安定化策が打ち出されていることや、ヘッジファンドの決算発表が終了したことなどが背景にある。原油価格が地政学的リスクに敏感に反応したことも、マネーの還流が影響しているだろう。今後、信用市場が回復するまでは、投資マネーのリスク選好度が急激に強まる可能性は低いとはいえ、マネーの動きが個別のコモディティのボラティリティを高めることになるだろう。マネーは個別コモディティの需給に敏感に反応し、コモディティ間を行ったり来たりすると予想される。

注目のコモディティは、金である。「米ドル安」のヘッジと「質への逃避」を背景に、世界の金ETF購入量は08年4-6月期の4tから7-9月期の145tへ急増した後、10-12月期も96tと堅調で、残高は08年末に1,190t(約330億ドル)へ膨らんだ。商品別・地域別に見ると、10-12月期には、スイスに上場する金ETFが40t、NYSEのSPDRRGold Share ETF(メキシコ、シンガポール、東京、香港でも上場)が25t増加し、英国では二つの金ETFへ合計10.9tの資金が流入した。先進国の金融市場が完全に安定するにはなお時間を要すると見られ、金ETFなどを通じた資金流入が続くだろう。金価格が1,200ドルを目指して上昇する可能性は高い。

世界経済成長率とコモディティ実質価格の騰落率

世界経済成長率とコモディティ実質価格の騰落率

注:07年までは実績。08年以降は、世界経済成長率はIMF、コモディティ指数はDIRの予想。「メタル指数」はIMFによる旧統計で、非鉄金属5種と鉄鋼の加重平均指数。「コモディティ指数」はIMFのコモディティ指数で、燃料指数と非燃料指数(メタル、農産物)の加重平均指数(2005年=100)。出所:IMFよりDIR作成

投資マネーとコモディティ市場

投資マネーとコモディティ市場

出所:CFTC等よりDIR作成

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