世界経済はひたすら「非デカップリング」する

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2008年01月29日

  • 尾野 功一

「デカップリング」論沸騰の背景

IT革新に沸き米国経済の絶対的な優位性が強く意識されたのは、それほど遠くない昔である1990年代の後半だった。ところが、現在は、有力な製造拠点としての地位を固めた中国、IT技術に強みを持つインド、資源価格高騰の追い風を受ける中東、ロシア、オーストラリア、市場経済への移行期間を経て新たな生産拠点として浮上する東欧、ようやくグローバル化の波に乗り始めたアフリカなど、世界経済は多様化している。世界の地域別の成長率をみると、1980年代以降常に高い成長率を維持するアジアに加えて、冷戦終結直後の混乱を乗り切った中東欧と旧ソ連圏が21世紀に入ってから成長率を大幅に伸ばし、アフリカも他地域と比べて見劣りしない状態にある。このように、先進地域、新興地域を問わず世界経済全体の高成長は、特定地域の景気後退が他地域の成長で補う粘り強い構造を意味する「デカップリング」論を生み出す強力な根拠となっているようである。

現実には、成長のエンジンはより集中し、経済循環の類似性はより高まっている

ところが、データを少し掘り下げるだけで、この議論の有効性は怪しくなる。
世界の経済成長に対する各国・地域毎の寄与度を求めると、1981年以降5年ごとの平均値で、米国は常に2位以内、中国は常に3位以内に名を連ねている。21世紀に入ってからは、中国経済の成長は常に話題の中心であるが、中国の世界経済に与える影響力は、かなり以前から大きかった。そして、成長寄与度上位3カ国・地域のシェア(寄与率)を求めると、2001-2005年の平均は、1971-1980年および1981-1990年の平均よりも高い。1991-2000年の平均は、2001-2005年の平均よりも高いが、この時期は旧東側諸国が市場経済に移行する過程で生じた混乱や、アジア通貨危機などを受けて、世界の成長率が低迷した時期が何年かあり、その際に上位の国・地域に寄与が集中したことが背景にある。過去数年は、全世界的に高成長を遂げているにもかかわらず、世界経済のエンジン(影響力)の分散は必ずしも進んでいるわけではない。

また、1970-2006年までを対象に各国・地域ごとに成長率を標準化し(平均をゼロ)、その標準化した値を用いて各年毎にクロスセクションで標準偏差を求めると、時間を経るにつれて着実に低下していることが分かる。この結果が意味することは、世界各国・地域の平均的な成長率格差を除去した後の成長率のばらつきは徐々に小さくなる、つまり、好況、不況など経済循環における位置の類似性が、世界全体で高まっていることである。

これら2つの結果は必ずしも因果関係を示すものではないが、現実の世界経済は、特色の異なる国が「自発的に個別に」ではなく「同時に」成長し、「デカップリング」とは逆の現象が進んでいることが示唆される。貿易や国際的な資本移動を通じて、世界経済の連携が強まるグローバル化が着実に進展していることを踏まえれば、これは極めて自然な結果であり、世界経済への影響力が強い国・地域のかく乱は、以前よりも世界中に波及しやすくなっていると考えられる。年明け以降、世界的に金融市場が不安定となるなかで、デカップリング論はやや影を潜めているが、数年間ではなく20-30年間の視点でみると、デカップリング論が沸騰することそのものがやや不思議な現象と思われる。

世界の経済循環の連動性
世界の経済循環の連動性

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