日本の円は安すぎるのか

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2007年08月01日

  • 原田 泰
日本の円は安すぎるという説がある。そう唱えるエコノミストもいる。確かに、日本銀行が推計した、相手国との貿易量でウエイトを付けた実質実効為替レートは、現在、1973年の水準にある。

実質実効為替レートは、作成の仕方によっては多少異なる結果になるから、本当に1973年の水準であるかには議論があるようだ。しかし、日本のデフレ、諸外国の安定的なインフレという状況を考えると、現在の実質円レートが、円安であることは確かだ。

円が安いと、海外のものを買うときには高くしか買えない。円が高くなるとは、日本で作ったものが高く売れるということだ。すなわち、円安とは日本人の給料が国際的に見て安くなることと同じで、円高とは国際的に見て高くなるとことと同じだ。

円安は日本人の給料が安くなることなのだから損で、円高は給料が高くなることなのだから得なのだろうか。しかし、給料が高い方が良いのは、仕事があるときだけだ。円が高くても日本の製品が高すぎて売れないのでは仕方がない。仕事がなければ給料が高くても意味がない。私としても、給料が高い方がありがたいが、それは首にならないときだけだ。

90年代に何が起きたかを考えてみると、失業率がどんどん上がり、2003年からやっと失業率が下がり始めた。下がり始めたが、まだ80年代の2%余というレベルに達していない。景気が悪くて製品が売れなくても、無理やりにでも給料を上げろというのは、戦闘的労働組合の主張である。またさらに、高い円でも大丈夫なように、国際的競争力を付けるべきだ、円安だから国際競争力が高まらないのだと元気な主張をする人もいる。

今どき、韓国でも戦闘的労働組合は流行らないようだ。そんな時代に、エコノミストが戦闘的労働組合の真似をしてどうするのだろうか。私は、国際競争力のないエコノミストとして、失業率が十分に低下するまでは、円安を歓迎したい。

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