グローバリゼーションが格差を拡大するとは限らない

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2007年03月01日

  • 原田 泰
グローバリゼーションが格差を拡大するという説が当たり前のように議論されている。グローバリゼーションの進んだ世界では、日本の労働者は、世界のもっとも貧しい国の労働者とも競争しなければならず、その結果、日本の労働者には賃金を低下させる圧力が働く。このことが日本国内の所得分布を不平等にするというが、本当だろうか。

確かに、貧しい国が発展すれば、その低賃金労働が輸出を通じて、先進国の非熟練労働者の賃金を引き下げるかもしれない。しかし、安価な製品が輸入されれば、日本の労働者の実質所得を引き上げる。また、貧しい国により豊かな人が増えていけば、彼らは先進国の高級な製品を求め、先進国の労働者の賃金を引上げる可能性がある。豊かになった中国人は、欧米のブランド物を盛んに求めているように思える。日本の高級車など、日本の高品質の財への需要も高まっているのではないか。

世界経済白書(1994年版、第3章第2節)の分析によれば、グローバリゼーションの効果は、先進国の労働者との競争を激化する効果とその所得を引き上げる効果の両方があり、格差を拡大する効果は大きくはないという(残念なことに90年代前半までの古い分析しかないが、その後、しっかりした分析はなされていないようだ)。

常識的に考えても、貧しい国が発展すれば、豊かな国の買うものが安くなる。100円ショップやユニクロの服や安価な家電製品によって先進国の貧しい人々の実質所得は高まる。日本が食糧の輸入も自由化すれば、さらに豊かになるだろう。また、貧しい国がブランド物やコンピュータを買えるほど豊かになれば、それを作る先進国の中堅労働者の賃金が上がり、むしろ中流の人々を増大させるのではないか。

物事は両面を考えてみないと分からないし、両面の大きさがどのくらいかを調べてみないとさらに分からない。

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