対内直接投資と生産性の向上

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2007年01月30日

  • 尾野 功一
「グローバル化」の言葉は広く浸透しているが、日本は対外経済との結びつきが小さい国である。

その一例が、日本の対内直接投資(海外から日本への資本流入)が少ないことである。対内直接投資(フロー)対名目GDP比は、2001年以降の平均でわずか0.2%、そして対内直接投資残高(ストック)対名目GDP比も同1.9%にとどまり、先進国、新興地域を問わず、世界でも最小レベルにある。「非開放的」との表現は適切でないとしても、日本の対内直接投資は極めて抑制された状態にある。

対内直接投資促進の重要性がいわれるようになって久しいが、その根拠はどこにあるのだろうか。近年は、家計(純)貯蓄率の低下が話題を集め、将来的に国内貯蓄の不足が国内投資を制約することへの懸念が一部で存在する。しかし、貯蓄は家計に限定されるものではなく、企業部門の貯蓄を含めれば、日本は貯蓄不足ではない。これは、日本が経常黒字国、つまり国内貯蓄よりも国内投資が少ないことにも表れている。もし、投資に必要な国内貯蓄を補完する役割で対内直接投資を捉えるならば、その必要性は低い。

データで示される対内直接投資の有効性とは、人口・労働力減少社会を迎える今後の日本にとって、より重要な課題となる労働生産性の向上である。OECDのデータによると、国内企業と(進出してきた)外国企業の労働者一人当たり名目付加価値(≒労働生産性)の水準を比較すると、比較可能な国ではその一部を除いて外国企業の方が総じて労働生産性水準が高いことが示されている。先進国内では労働生産性水準が下位に位置する日本はもちろんのこと、労働生産性水準が高い米国、フランス、オランダといった国でも、程度の差はあれ同様の結果が示されるのが興味深い。特に、1990年代に成長率や労働生産性上昇率で他の先進国を圧倒したアイルランドは、外国企業の労働生産性は国内企業の約6.7倍(2001年、製造業)もの水準にあり、同国の労働生産性急上昇に外国企業が大きく貢献したことがわかる。

この結果に示されるように、海外展開が活発な多国籍型の企業は、総じて高い競争力を有すると考えられる。日本国内に外国企業が進出(定着)してくれば、その企業へ労働力が移動し、あるいは企業間競争が強化されることを通じて、日本経済の労働生産性向上に寄与する。政府の対日投資会議では、構造改革や競争力強化の一貫として、対日投資促進プログラムを策定している。まだ、克服すべき課題は残されているとしても、これらの制度改定などを通じて対内直接投資が拡大することは、日本の労働生産性向上にとって好ましい姿である。

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