日本の持続的国富増加に向けて
2007年01月11日
国富の源泉は何か。かつて、アダム・スミスは、どのくらい質の高い労働者がいるかということが、国が富むかの尺度となると主張した。高い資質のある労働者からは、高い技術が生まれ、それがひいては、生産性を高め、国富へとつながるというものである。これは、日本人にとっては理解しやすい。しかし、アダム・スミスの考えは、彼が、スコットランド生まれだったことに影響されてはいないだろうか。たとえば、中東やロシアのように天然資源に恵まれた国の人々は、国富の源泉の第一を、質の高い労働と考えるであろうか。
ソ連崩壊後のモスクワでの生活を思い出す。ロシア語の先生や歴史専門の教授と、ソ連時代のこと、ロシアの将来などについて話し合ったことがある。その際、ロシア語の先生曰く、「今、ロシアは、従来のシステムが崩壊して、どのように生きればよいか、戸惑っている。しかし、将来には悲観していない。何故なら、ロシアには、たくさんの天然資源があるから。日本は、小型で良質な製品をつくるから、すばらしいと思うけれど、天然資源が少なくて大変だね」。これと似たような話は、市場経済の勉強で来日したロシア人からも聞いた。
その当時は、現在ほど、天然資源需要が盛り上がってはいなかったので、将来を楽観視するロシア人に対して、半信半疑な部分もあったが、今のような時代になってしまうと、なるほど、と思わなくもない。しかし、国富の源泉が天然資源であると言われてしまうと、日本は、ほんとに小さな国(ロシアの国土は、日本の約45倍)で、勝ち負けは明白、競争のしようがない。
こうした状況下、将来の国富増加に向けて、日本は何をするべきか。日本の富の源泉は、相対的に質の高い労働力や技術力だけではない。過去の成長によって積み上げられた金融資産も立派な富の源泉だ。特に、周辺地域が、かつて日本で生産したような製品で輸出主導の成長を享受し始めていることや、日本自体が、高齢化で労働の質的劣化が懸念されることを考えると、この要因の重要度が高まっている。
日本国の持続的な国富増加には、世界各国の潜在的成長力や成長スピードを見極めながら、需要の高い国に、既存の労働力、技術、金融資産を重点的に配置する構造を作る必要がある。1980年代、外貨を稼ぐために輸出主導の成長を目指したり、円高回避で海外への直接投資を増やした結果として生じた国際化とは違った意味で、再度、日本が国際舞台に登場していくことが求められている。
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