成功するスイスのバイオベンチャーたち;その成功の秘訣とは?

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2006年12月13日

  • 浅野 信久
  • 竹内 慈実

「バイオベンチャービジネスのメッカはどこですか?」という質問には、多くの方々が米国と答えることだろう。だが、このところの動きを鑑みると、どうも欧州にも目を向ける必要があることを痛感するようになってきた。例えば、スイスである。スイスという言葉が醸し出すイメージからは、高級時計やチョコレート、金融マンならプライベートバンキングなどといったことを連想するだろう。一方、医薬業界関係者なら、ノバルティス社やロッシュ社といった医薬品企業を真っ先に思い浮かべるにちがいない。文字通り、スイスは医薬品産業の国際的中心地で、中でも金融都市・チューリッヒ市から高速道路を利用すると、車で1時間ほどのバーゼル市は、これらの国際的医薬品企業の本拠地で、バイオセンターと称されている。

このスイスでは、バイオベンチャーの活動も活発で、その数も多い。バーゼルのほかに、バイオアルプスなどのバイオメデイカル・クラスターも形成されている。そして、特に注目すべきことは、大手製薬企業とバイオベンチャーとのアライアンスやM&Aが活発で、バイオベンチャーが医薬品の研究基盤を支える機能をうまく発揮していることである。バイオベンチャーが自動車産業に例えれば、部品メーカーのごとく、医薬品のR&Dにおける水平分業体制を確立していると言っても過言ではない。自社開発シーズよりもシーズが優れていれば、外部のベンチャー由来のシーズであってもそちらを選択するという大胆な方針をも公言してはばからない。大手製薬企業の研究チームといえども、ベンチャーとの競争環境に置かれているのである。

この結果、スイスの証券市場では、バイオベンチャーが現在でも、次々と新規株式公開(IPO)を遂げている。近年の事例だけでも、SantheraPharmaceuticals社、Medisize社、Speedel社、Arpida社、BasileaPharmaceutical社がある(表1参照)。ビジネスモデルは、多様である。とはいっても、やはり、スイスでも、バイオベンチャービジネスのビジネスリスクは高く、開花までは時間を要するという認識は強く、アーリーステージのバイオベンチャーの株式公開は、容易ではない。大手製薬企業(BigPharm)とアライアンスがあり、パイプラインには、臨床試験の第三相段階に入るくらいに臨床開発の進んだ治験薬を持つといったステージにある企業が公開を遂げている。

それでは、バイオベンチャービジネスの成功の秘訣は、何なのだろうか。IPOに成功したスイスのベンチャー経営者に率直に質問してみた。すると、意外な答えが返ってきた。その成功のキーワードは、「サイエンス」より、むしろ「グローバリゼーション」と「クロスカルチュラル・コミュニケーション」である。医薬品の研究開発費は増大し、国際商品としての開発なくしては収益が確保できない段階に達している。そこでは、ビジネスのグローバリゼーションは必須だ。国際ビジネスを展開するには、外国人スタッフや現地法人と円滑なコミュニケーションの素地を粘り強く築くことが不可欠となるというわけだ。スイスは地理的には陸続きでドイツやフランスに隣接し、企業には諸外国からの優秀な人材が結集している。さらに、スイスのビジネスマンや研究者は英語が堪能で、ドイツ語、フランス語など多言語を話す。したがって、バイオベンチャービジネスを展開するには、スイスに地政的優位性を感じざるを得ない。だが、日本でもこれら成功のキーワードを目標に据えた人材育成に力を入れるなどして、ぜひともスイス流のバイオビジネスモデルをキャッチアップしたいものである。
 

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