香港でも消費税を導入へ

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2006年10月31日

  • 牧野 正俊
日本では消費税引き上げ論議が続いているが、香港でも、消費税導入の議論が本格化してきた。香港特別行政区(SAR)政府は、2006年3月に消費税導入に関するコンサルテーション・ペーパーを公開し、10月18日には立法会(日本の国会に相当)で討論会を開催した。この日ばかりは、日ごろ対立している与野党がこぞって反対に回っている。

香港は、税率が世界で最も低い国のひとつである上(法人税が17.5%、個人所得税は16%)、キャピタル・ゲイン、配当、利息収入には税金がかからない。中国へのゲートウェイという地理的・人的な優位性、高度な金融インフラなどに加えて、こうした低税率も、国際金融センターとして世界中からのマネーを引き寄せる大きな要因であることは間違いない。

それにもかかわらず政府が新たな税制の導入を望んでいるのは、歳入のボラティリティが極めて高いことと、将来の財政支出増大への懸念が背景にある。

香港SAR政府は、97年のアジア通貨危機と、それに続くインターネットバブルの崩壊による不況で大幅な財政赤字に陥った。税率が低いのみならず、タックスベースが狭く、また所得税に対する依存度が高いため、不況期には一気に税収が減少する。さらに、土地売却益や投資収益など税以外の収入に対する歳入の依存度が高い。景気低迷時には、不動産価格の下落で政府土地の売却もままならず、歳入全体の落ち込みに拍車をかけることになる。

また、他のアジア諸国と同様に香港でも、高齢化が急速に進んでおり、65歳以上が人口に占める割合は、現在の12%から、30年後には27%に達すると予想されている。政府が負担すべき社会保障費や医療費が今後増大していくのは明らかである。

増税の方法としては、課税基準の拡大や税率引き上げもありうる。しかし、現在免税となっている金融関連サービスへの課税は、金融センターとしての香港の優位性に影響を与えかねない。法人所得税の引き上げは、諸外国が減税により自国企業の競争力を高めようとしている動きに逆行するものであり、当然ながら財界の支持は得られない。消費税には、低所得者層への負担が増加する「逆進性」という問題はあるものの、政府歳入の安定のためには、消費税の導入は最も有力な手段の一つであろう。SAR政府は、消費税の導入が単なる増税ではなく、よりよい税制のためには不可欠だということを明確に説明していく必要があろう。

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