破綻法制の検討と地方債デフォルトリスク

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2006年02月23日

  • 経済調査部 市川 拓也
地方分権21世紀ビジョン懇談会の議論が注目を集めている。同懇談会は「三位一体の改革後の将来の地方分権の具体的な姿をビッグピクチャーとして描き、それを実現する抜本的な改革案を議論するため」に開催される総務大臣の私的懇談会である。補助金や交付税制度、地方債制度など様々な角度からの検討がなされているが、特に紙面を賑わせているのが破綻法制に関する部分である。

破綻法制といっても、地方自治体が清算されることを前提とはしないであろうことから、狙いは再建のための債務処理方法等の明確化にあるといえよう。この件に関して、既に住民に税による負担を求めるなど国民一般にも無視できないような議論がなされているが、市場関係者における最大の関心事は、貸し手責任についてであろう。つまり、債務の減額を含めたデフォルトが起こり得る制度を考えているのかという点である。従来から、(1)地方財政計画を通じたマクロの財源調整、(2)起債許可制度、(3)財政再建制度、による“暗黙の政府保証”が広く認知されてきたが、もし上の意味でのデフォルトが起こり得ることを投資家に宣言するようなことがあれば、投資家の見方が一変する事態さえ想定されよう。

地方分権のベースに“自己決定”と“自己責任”があるとすれば、地方債の発行においても自らの判断で決定し、その責任も自らがとるというのは当然かも知れない。その考え方が正しいとすれば、地方自治体が無責任な起債決定を行わないよう“暗黙の政府保証”を外し、市場を通じて財政規律を働かせようというのもロジックにおいて矛盾はしてはいないであろう。

しかし、これが実際に機能するためには、前提として地方自治体が国の法令等で雁字搦めのようになっている状態から脱することが必要である。国の法令を根拠とした事務処理が多大に求められ、課税自主権も十分とは言い難い状態にあっては、一旦、財政状況が悪化すれば“独自”の策による短期間での再建は想定しづらい。市場評価という観点からすれば、そのような状態での再建策は評価の改善につながりにくいと言えよう。財政の悪化等によって許可団体になるか、外部環境の好転を待つかによって、市場評価の変化を期待することもできようが、これらは市場を通じて財政規律を働かせることとは明らかに異なる。テーマとして「破綻法制と地方債のあり方」が予定されている次回の懇談会では、この前提部分を十分に踏まえた上での議論となることを期待したい。

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