市民参加の新エネルギーへの取り組み

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2005年08月16日

  • 牧野 潤一
先日、古い映画をみた。1941年製作、ジョン・フォード監督「わが谷は緑なりき」。アカデミー賞もとった名作である。舞台は19世紀のウェールズの炭鉱の町。深い郷愁を誘うこの作品は舞台となった緑の谷が、次第に石炭採掘によって破壊されていく様子をさりげなく描き出している。
鑑賞後、人間の開発してきたエネルギーについて思いをはせた。確かに、19世紀、20世紀においては石炭、石油によって技術革新が相次いだ。そして、先進国に豊かな暮らしを提供したかにみえる。しかし、それは人類を含め生物の生命を脅かすほどの痛みを伴うものだった。今世紀においては、ぜひとも新エネルギーによる化石燃料代替が望まれるところである。
新エネルギーの将来目標としては、経済産業省「総合資源エネルギー調査会/新エネルギー部会」を中心に議論・検討が進められ、2010年度の実現可能な目標値を、1,910万kl(原油換算)と設定している。これは2002年度実績の約3倍に相当する。新エネルギーとは自然の中にある繰り返し使えるエネルギーやこれまで捨ててしまっていた資源を利用した発電のことで、環境にやさしいクリーンな発電方法として注目されている。代表的な太陽光発電、風力発電、地熱発電、燃料電池発電のほか、波力発電、バイオマス発電(汚泥や生ごみから発生するガスを燃やして電気をつくる)、廃棄物発電などがある。国の導入目標で最も高い伸びが計画されているのは、風力発電である。1990年度の3.5万kl(原油換算)に対し2010年度の目標ケースは134万klであり、約38倍、それに対し太陽光発電では23倍、バイオマス発電では6倍程度である。

風力発電について市民風車の取り組みがおもしろい。日本初の市民風車は、北海道のNPO法人で、脱原発運動から誕生した。「はまかぜちゃん」という名前で呼ばれていて、現在も、順調に稼動している。2001年9月竣工し、一口50万円で17年間の出資を呼びかけた所、1億4000万円が短期間で集まった。配当金も予定通りの額を実施している。
風力発電も太陽光発電と同じようにエネルギー効率が低いことや、季節・天候の影響を受けやすく不安定であるという弱点もあり、変換効率のより高い風車の開発が必要であるという課題も残されているが、このように市民自らが参加するということで、エネルギーリテラシーを高めることや、エネルギー経済として地域で循環するという持続可能な社会の形成に役立っていることの意義は大きいだろう。

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