世界金融資本市場の将来像

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2005年06月02日

  • 佐藤 清一郎

金融資本市場は刻々とその姿を変える。最近の特徴の一つは、新興国(※1)の存在感の高まりである。世界全体に占める新興国の金融資本市場シェアは、2001年の9.6%から、03年には11.6%まで伸びてきた。こうした背景には、先進国の倍以上のペースで続く経済成長、そして、90年代後半の金融危機後の資金調達システムを含めた金融インフラ整備への取り組みなどがある。今後の金融市場の展開を考える上で、新興国の存在は無視できない。ここでは、世界金融資本市場の現状、将来像について概説する。

第一に金融資本市場の規模。03年、世界全体の金融資本市場(株式時価総額、債券残高、銀行融資残高の合計)規模は130兆ドルであった。世界全体の経済規模(GDP)が36兆ドルなので、実物経済に対する金融資本市場規模は約3.6倍である。地域別では、米国41兆ドル(世界全体に占める割合は31.3%)、ユーロ圏35兆ドル(同27%)、日本20兆ドル(同15.5%)、新興国15兆ドル(同11.6%)となっている。経済規模との比較を行うと、米国がほぼ世界平均並みの3.7倍、ユーロ圏、日本は平均より高く、それぞれ、4.3倍、4.7倍。一方で、新興国は1.8倍と先進国を大きく下回る。

第二に金融資本市場の特性。先進国では、1)米国の民間部門の債務残高の多さと銀行融資残高の低さ、2)日本、イタリアの公的部門の債務残高の多さ、3)ドイツ、イタリアの株式時価総額の低さ、4)オランダ、英国、フランスの銀行融資残高の多さなどを指摘できる。先進国間で質的特性が類似している国は、英国とオランダで、株式時価総額は大きい、公的債務残高は小さい、民間債務残高は大きい、銀行融資残高はかなり大きいという特性がある。新興国では、アジア地域の時価総額と銀行融資残高の多さ、ラテンアメリカ地域の民間債務残高の小ささ、欧州地域の公的債務残高と銀行融資残高の多さなどが指摘できる。新興国間での質的特性を比較すると、地域でバラバラであるが、銀行融資依存度が高いことは、おおむね共通している。

第三に金融資本市場の将来。新興国が大きな役割を演じるであろう。この地域の今後を考える上で、2つの点が重要である。第一は、実物経済に対する金融資本市場の規模。現状、新興国は、この値が、先進国の半分程度にすぎないため、大きく発展できる余地を残している。第二は、資金調達形態のバランス。新興国は、先進国と比較して、銀行融資依存度合いが非常に大きいため、今後は、株式や債券市場が発展する形で資金調達のバランスが是正されるであろう。

(※1)先進国に対比して使われる言葉で、経済が発展途上にある国を指す。具体的には、中国、ブラジル、ロシア、インドなど。

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