元気が出る管理会計

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2005年04月25日

  • 野中 秀明

管理会計のコンサルティングをしていると、「部門毎の収支を精密に計測したいのですが…」という依頼をよく受ける。その場合、お客様と密林を掻き分けるように作業を進めていくことになる。「部門に直課すべき費用は?」、「共通経費の部門への配賦は?」、「部門間の売上振替は?」等々、売上と費用の「切り分けルール」を細かく定め、新たな「部門収支表」を完成させ、お客様の所期の目的は達成される。

ただ、このアプローチには弊害もある。収支の責任範囲を部門毎に厳格に区分してしまうため、他部門の状況に互いが無関心になることだ。正確な管理会計の追求の代償として、社風の悪化をもたらしてしまっては、何のためのコンサルだったのかということになる。

別の実例の紹介。サービス業A社があり、そのお得意様にB社がある。B社向けの営業は、専らA社の本社営業部が担当。実際のサービス提供は、A社の全国の店舗が行っている。この場合、本社営業部でかかったB社関連の営業経費を、全国の店舗へ配賦し、各店舗の損益を計測すべきだろうか?逆に、全国の店舗で発生したB社関連の売上と費用を、全て本社営業部へ振分け、営業部のパフォーマンスを評価すべきだろうか?つまり、B社向け事業の評価は、店舗を切り口として行うのが正しいのか?それとも営業部か?

それに対する我々の提言。「B社に関連する売上と費用の全責任を、いずれかひとつの部門に押し付けるのではなく、『B社事業収支表』を作り、それを営業部と全国店舗の共同管理としたらいかがですか。共同管理を進める過程で、営業窓口と顧客接点との間で今までになかったコミュニケーションが生まれませんか。」この提言は、実際にA社にて採用された。

特に経営革新の途上にある企業に対しては、この「共同管理のアプローチ」で臨むことにしている。つまり、ひとつの収支表を複数の部門の共同管理とし、その収支表をベースに部署のワクを取り払った議論を起こし、その中から現状改善のためのアイディアやナレッジを引き出す「仕掛け作り」に、より多くの力を注ぐ。経営上の真の解決策は現場に埋もれており、それを呼び起こすには部署横断的な議論が必須であると考えるからだ。

コンサルの現場では、タイミングを見計らって、「いっそ、この管理数値をこの部門とあの部門で共同管理したら、両者間でどんな議論ができそうですか?」と尋ねる。複雑な数字の考察に疲弊していたお客様の表情が輝き、「こんな議論ができる」、「議論の中からこんな有益なアイディアを出せそうだ」という意見が噴出する。「社内の閉塞状況を打ち破るきっかけになるかもしれない」という期待感を、お客様に持って頂く瞬間でもある。

誤解を恐れずに言えば、部門や製品ごとの損益把握は大雑把でよい。むしろ、その大雑把な管理数値をきっかけに、いかに経営革新や企業風土の改善へ導いていくかが肝要である。我々の投じた一石が刺激となり、社風が徐々に改善されていく姿を常に想い描きながら仕事をしており、実際にそうなったとしたら、コンサルタントとして望外の喜びである。

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