グリッド普及の課題

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2005年02月18日

  • 井上 学
グリッドコンピューティングとは、多数の計算資源を動的につなぎ、一つの高性能な計算資源とみなして利用する手法で、「一つの計算資源とみなす」という"仮想化"の概念が最大の特徴である。そもそもは、科学技術分野で大量計算を分散化し、計算時間を短縮化することで利用され始めた。そして、計算処理の高速化を目的とした利用法はコンピュータグリッドと呼ばれ、これまでグリッド利用の一形態として大きく取り上げられてきた。

計算時間の短縮化ニーズは、多くの企業にも存在する。例えば金融機関では、リスク管理や派生商品価格の計算等で大きな計算時間が必要だが、その結果を利用してレポートを作成する場合、担当者はPCの前で計算が終わるのを待つしかない。周囲の空きPCを利用して、計算時間を短縮したいと思うのは当然である。昨今グリッドがビジネスで注目されてきた理由も、コンピュータグリッドのニーズが潜在的に大きかったからだろう。

ただ、実際にグリッド環境を構築する場合、無償ミドルウェアを利用すればインストールやメンテナンスに作業コストが発生し、商用パッケージを利用すれば費用が掛かる。計算時間の短縮が目的なら、高性能なPCが比較的安く手に入るため、新規にPCを購入すればいい。結局、興味はあるが、コンピュータグリッドとしての活用では費用対効果の判断が難しいというのが、企業でグリッド導入が進んでこなかった原因だろう。

最近では、異なるサービスを提供するコンピュータを連携して一つのサービスを実現するサービスグリッドや、分散したデータを仮想的に統合して活用するデータグリッドが実現されるようになった。しかし、他の技術で解決できなかった課題が、グリッドで新たに解決できるようになったわけではない。グリッドの利用形態は拡大しているが、代替手段と比較してグリッドの費用対効果を判断できるかどうかが、今後も企業でのグリッド普及の課題だろう。

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