新たな展開を迎えたベンチャーキャピタル

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2004年06月15日

  • 鈴木 典之
ベンチャーキャピタル等の組合型ファンドに関連する改正を含む証券取引法の改正法案が今国会に提出された。証取法は「国民経済の適切な運営及び投資者の保護に資するため、有価証券の発行及び売買その他の取引を公正ならしめ、且つ、有価証券の流通を円滑ならしめること」を目的としている。今改正で、投資事業有限責任組合契約や類似する組合契約に基づく権利は有価証券と見なされ、証取法による投資家保護の対象となる。

1982年、日本において初めて民法組合を活用したベンチャーキャピタルが創設された。限られた組合員による共同事業として運営されることや自主的な運営規律などにより、投資家保護上の問題を生じることもなく、ファンド数は97年には268本にも達した。また98年には、主に年金などの機関投資家の利用を念頭において新たに有限責任制度を組み込んだ法律(中小企業等有限責任組合法)が制定された。運営そのものにかかわらない「投資家としての組合員」の責任範囲を明確にした制度であり、投資家人数の制限や対象を機関投資家に限定するなど、組合型の運用理念を維持し、併せて開示に関する整備も行われたⅠ。

しかし欧米と比較すると、日本における投資実績などはまだ小さいのが現状である。先行している米国では02年の年間投資額は前年に比べ大きく減ったとはいえ約2兆1千億円の規模(米国ベンチャーキャピタル協会調べ)があり、日本の1,813億円(同年、ベンチャーエンタープライズセンター調べ)と比較して10倍以上の差がある。また資金調達面において、米国では年金ファンドなどの機関投資家や富裕個人投資家等も参加する構図になっているがⅡ、日本では銀行・信用金庫・信用組合:30.2%、事業法人:17.7%、保険会社:14%であり、年金は1.2%にすぎない(02年度調査)。投資家の多様化に向けては、投資家保護の拡充等投資環境の一段の整備が必要である。一方、過度の規制の強化は、投資家の投資意欲やベンチャーキャピタルの事業意欲を減退させる危険性もはらむことから、私募的な運営の中で発展してきた実態を十分かんがみて、検討を行う必要があることは言うまでもない。

産業構造の変革には、新たな事業分野開拓や将来の日本の市場や雇用を支えるベンチャー企業を創出することが必須課題である。ベンチャー企業を中心として新規産業が創出されることにより、良質な雇用機会の創出が図られることが期待される。一方、投資家の多様化は供給されるベンチャー資金の多様化と同義であり、結果としてベンチャーの活性化につながるものと期待される。これまでもベンチャー企業への主要な資金供給手段としての役割を果たしているベンチャーキャピタルだが、今回の証取法改正に伴う投資環境整備で、より基幹的な金融仲介手段としての役割が期待されるところである。

Ⅰ)法整備などが行われたこともあり、ベンチャーキャピタルは増加傾向にある(03年8月現在で335ファンド)。
Ⅱ)米国でのベンチャーファンドの投資家主体別の割合は、年金ファンド:約40%、個人投資家:10%程度、残りは法人投資家や各種ファンドとなっている。

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