高校生の理数科学力低下と科学技術創造立国

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2004年03月03日

  • 鈴江 栄二
初等・中等教育段階からの起業家教育と投資家教育の重要性の認識は着実に広がりつつある。いうまでもなく、フロントランナー型経済構造へ転換を目指す日本にとって、科学技術創造立国とハイテクイベンチャー創出は不可欠の課題である。アメリカでヒューレットパッカードを始めとする世界のトップ企業群の多くが大学発ベンチャーとして出発し成長した背景には、子供時代から起業家精神を育成する社会環境が整っている点が挙げられる。こうした仕組みを通して子供時代から起業意欲や科学技術、実体経済等の知識を養うことが、社会人となった後ベンチャー創業に積極的に参加し、その成功確率を高める推進力となる。

創業のエンジンとして重要なのが独創的な発明やアイデアの創造である。特に青色LEDの特許訴訟にみるように、基礎的な科学技術を基本とする特許化可能なシーズのいかんが成功の大きな鍵を握る。起業家教育とともに未来社会の担い手となる子供達の科学技術教育の充実は健全な文明発展の基盤となる。

にもかかわらず近年、初等中等教育において、特に理化離れといわれるように理数系における学力低下に対する懸念が強まりつつある。文部科学省が今年1月に公表した高校3年生の学力調査結果でもその現状が明らかにされ、関係者の間で波紋を呼んでいる。その特徴は、(1)あらかじめ目標正解率を設定し(設定通過率)それを下回った科目が、国語と英語を除く数学・物理・化学・生物・地学の理数系すべてに及んだ、(2)その内容の分析から「関心・意欲・態度」など教育の重点に置かれてきた項目の劣後が浮き彫りにされた、(3)同時に行われた意識調査において、「(理科系5科目の)勉強が大切だ」と思わないという回答が第1~2順位を占めた、(4)学校以外に平日何時間勉強するかという問いに対し「全く、またはほとんどしない」が41%を占めた、などである。昨年から小・中学校の理科の学習時間が削減されたことにより、今後の調査結果はさらに悪化するだろうという大学教授の指摘もあった。

さらに2年前の本ページでも紹介した中・高校生の意識調査を再掲してみると、(1)科学の分野で新しい発見をするのが人生目標とした比率が、中国・アメリカ・韓国にくらべ日本は大きく劣る、(2)平日自宅で勉強する時間について「ほとんどしない」が日本は最多数で、アメリカ・中国にくらべ大きく劣後する(以上日本青少年研究所)、(3)中学生の学力国際比較において95年から99年にかけて数学は世界3位から5位に、理科は3位から4位に降下した(文部科学省)、などである。こうした憂慮すべき状況は1990年代から始まっている。経済の再生が進展し始めた今日であるが、近未来社会の担い手となる人材の国際競争力が衰弱しつつある様子がうかがえる。教育関係者の危機意識の広がりから学力向上に向けた施策が今後より一層加速していくことが望まれる。

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