緊迫する欧州情勢—金融緩和はまだまだ必要

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2012年06月28日

  • 大和総研 顧問 岡野 進
ギリシャでは6月17日の再選挙で新民主主義党が勝利し、全ギリシャ社会主義運動、民主左派との3党連立の政権が成立した。3党は基本的にはEUとの協調を重視しており、EU、IMFとの合意による支援を期待する立場である。支援の条件として定められている歳出削減の達成期限について少なくとも2年の延長を認めるよう部分的な再交渉を求めているものの、妥協が成立する可能性は高いと思われる。ただし、それでユーロ圏離脱の可能性がなくなったとまではいえないだろう。問題解決のためには、ギリシャがユーロ圏にとどまってデフレを甘受するより、離脱して独自通貨のもとで国際収支の調整を進めていくほうが望ましいとする見方も多い。一方、ユーロ圏にとどまるも、政府が並行的に独自通貨的な債務証書を発行して支払いに充て、その相場が下がることで他のユーロ圏諸国との価格調整を実質的に進めて国際収支を改善させようというアイデアもある。


ギリシャがユーロを離脱するかどうかという問題は、それはそれで大きいが、欧州の金融市場が危機に陥るかどうかはスペインの情勢しだいだろう。スペインは6月25日、正式にEUに対し同国銀行セクターへの支援を要請し、EUは7月9日の次回財務相会合までに支援の枠組みを詰めることとなった。スペイン政府はさきに銀行セクターの追加資本必要額を最大620億ユーロとする監査結果を公表しており、これを十分にみたす支援が必要であると思われる。


そもそもスペインが支援をEUに求めなければならない理由は、ギリシャ問題とは異なり、財政の放漫ではなく住宅(不動産)バブル経済の崩壊による銀行セクターの問題であったにもかかわらず、自国の財政による公的資金注入が、国債調達コストの跳ね上がりで悪循環を招く構造に至ってしまい、自国だけでは解決できなくなったことにある。支援は、スペイン政府への低利融資として実施されると伝えられており、これでは問題の解決にならない。ただし、EU側からすれば、EU全体でリスクをとる銀行への資本注入を行うのであれば、公正な方法をとっていくためには、域内の銀行救済や破綻処理などを一元化することが必要になる。これも、問題解決の方向がユーロ圏の財政統合と金融制度のより深い統一を必要としていることを示している。


共同債などの財政統合へのファーストステップも政治的課題として、すぐには進捗しないだろう。いまだに欧州は不安定な金融、経済情勢の中にある。ドイツ、フランス、イタリア、それに、スペインの4か国が首脳会議(6月23日)で1,300億ユーロ規模の経済成長促進策の必要性について認識を一致させたとされる。緊縮一本やりから転換したことは評価できるが、どこまで具体的に有効な政策が打ち出されてくるかは不透明である。


こうした金融不安を抱え、欧州自体での金融緩和の継続は不可避であるし、国際的にもそれをサポートする主要国の金融緩和の継続が必要だろう。米国では、再び量的緩和を拡大するいわゆるQE3の発動が取り沙汰されている。きっかけとなるような金融情勢の展開を待っているという趣であるが、いずれにせよ金融の量的緩和は依然として必要だ。問題はタイミングと規模である。


それでは、日本はどうであろうか。世界の株式市場は欧州金融情勢に一喜一憂している状況を脱していない。その意味で、日本は輸出など実体経済での影響もさることながら、株式市場の低迷という影響を強く受けている。日本の株価は平均的に1株当たり純資産を下回る状況である。株式の価格変動リスクを極端に避ける傾向がこうした株価低迷を生んでおり、それが実体経済にも悪影響を与えている。これは単純に日本銀行のバランスシートを拡大して量的緩和の「規模」を拡大すればよいという問題ではなく、リスクマネーの収縮を食い止めるような施策が必要である。国債の購入に偏重せず、ETFやREITなどリスク資産の購入を大きくしていくことが必要であり、ETFに関しては日銀のバランスシートだけでなく、銀行等保有株式取得機構を活用していくような政策も検討されてよいのではないか。

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