金融危機対応のステップ

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2009年01月28日

  • 土屋 貴裕

金融から実体経済に波及する形で、世界経済のスパイラル的な悪化が起きている。金融仲介機能がうまく機能しなくなり、貸出等の与信の縮小(端的には、貸し渋りや貸し剥がし)を通じて実体経済が悪化し、実体経済の悪化が金融部門に負のフィードバックをもたらしているのである。実際に起きている現象から理解すると、ある資産(今回はサブプライム・ローンを証券化した商品から)の価値が下がると、その資産を保有している主体のバランスシート(以下、B/S)が急速に縮小することになり、他の資産を売却・回収につながることになる。貸出等の与信に慎重になり、日本の株や債券も売られた。レバレッジの大きさによって、縮小すべきB/Sの大きさ、縮小スピードも変わる。

こうした金融危機への対策は、どのように進んでいくのだろうか。現実が重層的であるため単純化のリスクはあるが、今がどのようなタイミングにあるかを考えてみよう。

対策の最初のステップは、(1)流動性の供給である。金融機関の突然の破綻を防ぐ対策であり、最終的には中央銀行のみがその役割を果たせる。銀行間で資金を取引する市場を中心に、短期金融市場の混乱が落ち着くか否かがポイントで、この局面は概ね終わっていると考えられよう。

次のステップ(2)は、金融機関の支払い能力の問題、すなわちB/Sの改善につなげる措置である。本質的には将来的な収益の改善でなければならないが、それまでの時間を買う措置であり、資本増強や不良債権の買取り等が行われる。民間資金で対応できなければ、資金調達コストが最も低い公的資金での対応が求められることになる。対応すべき金額は、保有資産の傷み具合がわからなければならないが、現在の米国ではそうした資産査定は行われていない。このため、金融機関へ資金が渡っても、個別金融機関に渡った金額の妥当性がはっきりするためには決算等を待たなければならず、時間がかかってしまう。個別に追加資金が必要となっている背景と考えられる。

ここまでが主に金融部門内部での対応となるが、当然、実体経済の方への手当ても必要である。まずは、資金繰りが困難になっている相対的に健全な借入主体への対応だが(ステップ(3)クレジットクランチ対応)、「相対的な」健全さの区別が困難であり、広く手を差し伸べざるを得ない。日本での信用保証制度や公的金融機関からの融資等が該当し、直接金融が広がる米国では、FRBの住宅ローン証券の買入れ、FDICによる社債の保証等もこれにあたるだろう。だが、抜本的には(4)のステップとして、借り手が健全になって金融機関のB/Sも改善する措置が必要である。資金の借り手と貸し手の一体再生で、日本で言えば産業再生機構等があたるが、景気がよくなれば解決することから、一言で言えば景気対策となる。そして最後が出口政策であり、金融・財政政策の正常化に向かう過程となろう。

現在は、ステップ(2)から(3)にかけた過程にあると考えられるが、冒頭に述べたように、危機はスパイラル的に悪化する。相対的に健全であった実体経済の他の部門も、金融危機の影響を受けて悪化すれば、金融部門に負の影響をもたらすことになる。対応が遅れると、負のスパイラルはもう1周するリスクが出てくる。今はその瀬戸際にあるのではないか。

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