ロング・ショート戦略の可能性 -「トリオ・トレーディング」の提案-

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2005年05月26日

  • 斎藤 哲朗

ロング・ショート戦略とは、割安な資産を買って割高な資産を売るという極めてシンプルな投資手法である。長期にわたるマーケットの低迷を背景に、伝統的な資産との相関が低く絶対リターンを追求する投資戦略として注目を集めた。ヘッジファンド運用で主流をなすと言われる同戦略は、オルタナティブ投資の一つとして近年特に増えてきたが、新聞報道等によれば最近のヘッジファンドの運用成績は芳しくなかったようだ。同戦略の有効性は低下してしまったのだろうか?

ひとまとめにロング・ショート戦略といっても具体的な戦略は様々であるため、パフォーマンス悪化の原因を特定するのは難しい。ただ、同戦略はマーケットの非効率性に投資する戦略であるため、同戦略の有効性はマーケットの非効率性に依存する。同じような戦略によるファンドの設定が増えたことによって、マーケットの非効率性が是正され、収益機会が減っている可能性は指摘できる。また、このようなことが、最近のマーケットのボラティリティ低下に表れていると考えることもできる。

しかし、ロング・ショート戦略は非常に可能性がある。ロング・オンリー戦略と違い、ショートができるということは、ネガティブな情報を十分に利用でき、ポートフォリオ構築の効率上有利といえる。また、ロングとショートのポジションをほぼ同額に調整する(=マーケット・ニュートラル)ことによって、マーケットの変動の影響を受けにくくなり、相場環境に関わらずプラスの収益を狙えるからだ。

大和総研 投資戦略部 クオンツ・チームでは、以前よりロング・ショート戦略に関する様々な研究を行ってきた。具体的には、マーケット・ニュートラル戦略としてのペア・トレーディングや、ポートフォリオベースで行うロング・ショートなどがある。

リスク管理上は、ポートフォリオベースで行う方が有利である。複数銘柄を保有することによる分散効果が働くからである。それと比べて2銘柄間でトレーディングを行うペア・トレーディングのリスク管理は難しい。2銘柄の株価の連動性が崩れた場面で割安銘柄を買い割高銘柄を売ったとしても、例えばショートしていた銘柄にポジティブなニュースが突然発表され株価が上昇した場合に、ペアの損益は一気に悪化する等、1銘柄当たりのリスクが高いからだ。

上記の2つの戦略に限った場合、どちらがよいかは顧客のニーズによる。特定の銘柄に対するショート銘柄を見つけたい場合や、短期的な価格のエラーを投資機会としたい場合はペア・トレーディングが有用だろう。また、ポートフォリオベースではフォローする銘柄が多すぎてポジション管理が煩雑であったり、リターンの源泉がコストにより食いつぶされる可能性を勘案すれば、ペア・トレーディングは有効な戦略といえる。そこで、今回はペア・トレーディングのリスク管理を向上させる手段として考案した「トリオ・トレーディング」を紹介したい。

「トリオ・トレーディング」とは、その名前の通り、3銘柄間で裁定取引を行う投資手法であるが、具体的には1銘柄をショート(あるいはロング)する一方、2銘柄をロング(あるいはショート)する。これは、1銘柄に対して2銘柄でリスク管理を行うため、リスク管理の信頼性を高めることができる。また、トレーディングの候補(=トリオの組み合わせ)も広がり、投資機会が増えるというメリットもある。実際にバックテストを行った結果、パフォーマンスも良好であった。

以上より、マーケットの非効率性は減少している可能性は否定できないものの、ロング・ショート戦略はロング・オンリー戦略にはない多くの有利な特徴を持っており、今後も有望な投資戦略として注目したい。同戦略は自由度が高く、創意工夫の余地が残されている。今までは有効に機能していた投資手法が徐々に通用しなくなっている可能性もあり、マーケットの非効率な部分を見つけ出し収益化する斬新なアイデアが求められているといえるだろう。

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