もし、あなたが企業不祥事の当事者だったとしたら...

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2017年12月28日

  • マネジメントコンサルティング部 主席コンサルタント 吉村 浩志

今年を振り返ると、例年にも増して、企業不祥事が目立つ一年だった。いくつかの事例には、名門企業、長期間、組織ぐるみといった共通した特徴もあり、産業界のみならず、一般消費者にも強い印象を残すものであったように思われる。
そうした喧騒の中、静かに復刊された一冊の本に、私は感銘を受けた。昨年他界したインテルの元CEOアンドリュー・S・グローブの『パラノイアだけが生き残る』(※1)である。私が注目した箇所は、ペンティアムプロセッサの浮動小数点演算ユニットの欠陥による巨額損失事件である。このエピソードは、企業不祥事というのは決して他人事ではなく、いつどこで起こってもおかしくないと考えさせるものだ。


インテルのケースは、ある数学教授がペンティアムの演算能力に疑問があると書いたことが発端だった。この指摘以前に、インテルは問題を認識していたものの、影響は非常に限定的であること(※2)から、影響が大きいと想定されるユーザーに対してのみ、交換に応じる方針をとっていたという。ところが、マスメディアの報道が広がるとともに、外部からの批判の声も強まっていき、最終的には、ユーザーの要求があればすべて交換に応じる方針に追い込まれることとなった。
のちにグローブはこの事件を振り返り、「ユーザーから見れば、わが社は巨大企業になっていたのだが、残念なことに、大事件が起きて初めて、われわれはそのことに気づいた」と述べている。インテルは大規模なintel inside(日本では「インテル入ってる」)キャンペーンで一般消費者も含めて認知されるようになっており、また、急激な成長もあって短期間に世界最大の半導体メーカーに変貌していた。「こうした変化は徐々に生じ、時が経つにつれて非常に大きな変化」となり、「今までのルールは通用しなくなっていた」と言うのである。
かつては「メーカーを相手に、すなわち技術者対技術者で、会議室で黒板を使ってデータ分析をして解決すればよかった」。しかし、インテルの立ち位置が変わったことで、それでは済まなくなっていたのである。


今日では、インテルの事件から20数年が経ち、外部環境は大きく様変わりしている。外部環境が変われば、自社の立ち位置が全く同じだったとしても、「今までのルール」は通用するとは限らない。必要なのは、違う視点から自社を見ることである。例えば、自社がBtoB企業だとしても、自社の取引先のもっと先にいる顧客や消費者の視点で、自社が従っているルールや自社の行動を見ることが、今日では大事になってきている。私たちコンサルタントについても同じことが言える。今年を締めくくるにあたって、私自身、肝に銘じようと思う。


(※1)アンドリュー・S・グローブ『パラノイアだけが生き残る』日本経済BP社、2017年(1997年に出版された『インテル戦略転換』の復刊)。以下、インテルに関連する本文中の括弧書は同書第1章からの引用。
(※2)欠陥の内容は、「割り算を続けると90億回に一回の確率で誤った答えを出すもの」であり、「表計算を使う一般的なユーザーであれば、2万7000年間計算をして一回間違うかどうかという結果」だったと言う。これは「半導体の問題として通常見つかる欠陥の発生率と比較してもはるかに低いもの」であったことから、「欠陥を修正してテストしていく一方、在庫品もそのまま出荷し続けた」とのことである(括弧書は前掲書第1章からの引用)。

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