フランス大統領選挙は何故重要なのか?

2017年4月13日

4月23日に第一回投票、5月7日に決選投票が予定されるフランスの大統領選挙では、独立候補のマクロン元経済産業デジタル相の当選が有力視されている。昨年のBrexit、トランプ氏の米大統領選挙での勝利に続く、国民戦線党首のルペン氏の大統領就任という「どんでん返し」は、どうやらないという見方が優勢である。一つの理由は、上位二者による決選投票という同選挙の仕組みが、中道勢力に対する支持者を一本化させ、極端を排する安全弁の役割を果たしているからだといわれる。

しかし、本当にそうだろうか。決選投票によって有権者に与えられるのは、当たり前だが二者択一という最小限の選択肢である。そこでは例えば、トランプ氏への支持からではなくヒラリー氏への嫌悪がトランプ票に結び付く、或いはEUの何たるかを知らぬ英国人がロンドンのエリートに対する反感故に「離脱」に票を投じるといった行動、つまり積極的な投票基準を持たない有権者の「No!」の声が選挙結果を決定づけるということが起きる可能性はないだろうか。実際、共和党の予備選では、前大統領のサルコジ氏が惨敗し、現職のオランド大統領は社会党候補としての出馬さえ諦めざるを得なかった。これらがエスタブリッシュメントに対する「No!」の声が強まっていることの証左であるとすれば、マクロン氏が安全地帯にいるとはとても思えない。同氏は既存政党から距離を置く「独立候補」と位置付けられているものの、かつてオランド氏の側近を務め、閣僚の経験もある。しかも、エリート官僚養成校として名高いフランス国立行政学院(ENA)の出身なのである。

もっとも、仮に「No!」の氾濫がルペン氏を新大統領に押し上げることになったとしても、すぐさまFrexit(フランスのEU離脱)が実現するわけではない。米国のトランプ氏が議会や司法の壁に直面しているのと同じく、ルペン氏も思うがままの政策を実行できるわけではない。にも拘わらず、ルペン大統領の誕生はEUの将来にとって極めて深刻な脅威となり得る。

それは何より、経済的に見ればEUは矛盾だらけの難破船のようなものだからである。ユーロ圏危機はECBの力技などで「蓋をされた」状況にあるが、抜本的な解決は先送りされ続けている。危機の根幹は、金融政策・通貨を統合しながら、財政政策はバラバラという「中途半端な統合」にあり、その解消にはすべてをバラバラに戻すか、統合を完結させるかのいずれかが必要である。その二者択一にかかわる政治的コンセンサスが得られない以上、危機は収束せず、ギリシャ問題はくすぶり続け、域内格差問題が再度先鋭化することも必至である。こうした中で統合の求心力を維持していくには、強固な政治的意思とリーダーシップが不可欠であるが、問題は、ルペン・フランスの誕生が政治的リーダーシップの担い手としてのドイツの負荷を著しく高めざるを得ないことだ。その時、ドイツは数多の経済矛盾に押しつぶされることなく、EU統合を維持、深化させる意思を持ち続けることができるのだろうか。やはりフランス大統領選挙は、巨大な潜在的リスクを内包したイベントである。

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