AIがもたらす近未来をどう描くか

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2016年11月08日

  • コーポレート・アドバイザリー部 主任コンサルタント 吉田 信之

今年の(将棋の)竜王戦において、「対局で席を離れることが多い」として挑戦者が直前に出場停止処分になる、という異例の事態となったニュースは記憶に新しいところであろう。挑戦者が離席時に将棋ソフトを利用したかどうかは定かではないが、将棋の電王戦ではAI(人工知能)を搭載したコンピュータ将棋ソフトがプロ棋士に2年連続で勝利するなど、目覚ましい発展を遂げてきた。かつてのコンピュータや産業用ロボットは、定型的な業務を正確かつスピーディに行うことに長けている反面、非定型的・創造的な業務はできないとの印象もあったが、AI、特にディープラーニングなどの最先端AIの登場により、状況は一変したといっても過言ではないだろう。

経済産業省が平成28年1月に公表した「第4次産業革命への対応の方向性」では、日本における①少子高齢化の進展と②グローバル化の深化・産業構造変化の加速化に加え、③(AI等による)第4次産業革命の発現が、我が国の「仕事・働き方」を大きく変化させるとしている。AIやロボット等による生産性向上や省人化が進展し、人手不足産業における労働需給のミスマッチ解消や、「日本語の壁」の破壊によるグローバル化の深化等がもたらされることによって、新たな雇用ニーズが生まれるのではないかと考えているのだ。英オックスフォード大学の研究者、カール・フレイとマイケル・オズボーン両博士が2013年に発表した「未来の雇用」では、現存する職種の47%がAIに奪われるとし、「電話による販売員」は99%の確率でAIに仕事を奪われるのではないかと推計している(図表1)。

AIがもたらす近未来をどう描くか

AIの発展が未来にどのような変革をもたらすのかは神のみぞ知る、ではあるが、AIと人間の共存社会は、映画やSFの世界だと笑ってばかりはいられない状況になりつつある。かつて人件費の安い労働力を求めて海外に進出した企業も、国内で次世代ロボットを活用することで、より安価な生産が可能になるかもしれない。また、AIを搭載したロボットが生産工程で自ら学習し、部品と連携して動作するようになれば、完全に人間の介在そのものが不要になるかもしれない。

経済産業省では、日本で第4次産業革命が実現する目安を2030年としている。日本企業は、東京オリンピック(2020年)後における中長期ビジョンを考えるにあたり、AIがもたらす近未来がどのような影響をもたらすかを考える必要があるといえよう。AIは、少子高齢化や人手不足、言葉の壁など、これまで想定されてきたいくつかの障壁をあっさりと超えていくツールとなる可能性を秘めている。はたして、2030年はどのような世界となっているのだろうか。

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吉田 信之
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コーポレート・アドバイザリー部

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