豪州ケアンズを訪れて

「観光地のベッドタウン」からの脱却となるか

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2014年10月06日

  • 濱田 真也

先月、豪州の北東に位置する都市ケアンズ(Cairns)を訪れる機会があった。筆者が訪れたのは、20か国・地域(G20)財務大臣・中央銀行総裁会議が開催される1週間ほど前であったが、街のメイン通りには“G20 Welcome to Cairns”と書かれたフラッグが掲げられており、既に歓迎モードであった。

ケアンズの街並みは街路樹からも熱帯の港町の雰囲気を感じさせるが、ショッピングセンター、ホテル、商店街が小さな区画内に集まっているのみで、街中に目ぼしい観光スポットはない。むしろ、そこを拠点にグレートバリアリーフを臨む島々へ出かけたり、内陸の熱帯雨林へ出かけたりと、周縁の観光スポットへ行くためのインフラが整備された、言わば「観光地のベッドタウン」のような印象を受ける(※1)。また、街を少し離れてみれば、“A1”と呼ばれる国道沿いにサトウキビ畑とバナナ畑が延々と広がる豪州の田舎町らしい風景にも出会える。

ケアンズは、以前はサトウキビ栽培を主産業としていた田舎町であったが、1980年代にその主産業が行き詰まる中、その打開策として周縁の豊かな自然を利用した観光産業に着目した。このとき、経済規模が小さい同地域において、その開発を外部資本に頼る方向で進める中、当時バブル経済で投資資金を豊富に持っていた日本企業が直接投資、さらに観光地としてのPRを行った結果、日本においてもリゾート地として認知されたという経緯がある(※2)。確かに、ホテルや商店には日本人スタッフがいることも多く、このことからも、ケアンズの観光産業において日本資本が影響力を持っていたことが伺い知れる。

しかし、ケアンズが位置するTropical North Queensland地方への海外からの観光客は2005年あたりから減少の一途を辿っており、特に日本人観光客の減少が顕著である(※3)。この原因については、豪ドル高や金融危機後の景気悪化など、同地域に限らないものもあるだろうが、ケアンズがリゾート地として日本人に根付かなかったということもあるのでは、というのが数日間の滞在での感想である。

あくまで私見だが、ケアンズの街並みからはリゾートを意識した印象を受けるものの、いわゆる「青い海や白い砂」から想起されるリゾート感は味わえず、それを味わうためには現地ツアーなどに参加する必要があり、更なる時間的制約、金銭的負担を強いられる。このような点を考えれば、日本人にとってリゾート地の代表であろうハワイと比肩する存在、つまり「第二のハワイ」としては力不足ではないかと思われる。

しかし、このような暗い話ばかりではない。本年には香港実業家がカジノリゾートを建設するための暫定的な認可を受けたという話もあり(※4)、中国資本がケアンズの観光産業の活性化における次の担い手となる可能性がある。上で「観光地のベッドタウン」と評したように、ケアンズの街自体が持つリゾート感は今のところ乏しいように感じられるが、新たにカジノリゾートという価値を加えることで(※5)、次は「第二のマカオ」となることができるのかに注目したい。

(※1)昼間は周縁の観光地に出かけ、夜になると滞在しているホテルに戻るという意味で「ベッドタウン」と評している。
(※2)小野塚和人(2011)「観光地ケアンズの生成と日本企業:イメージ戦略をめぐる政治過程と地域社会変動」(オーストラリア研究(24): pp. 40-55、オーストラリア学会)
(※3)Deloitte (2012) “Queensland Tourism – Industry Outlook and Potential to 2020”, pp. 89-90
(※4)「マカオに挑むカジノリゾート目指す-豪ケアンズで香港実業家」(2014年6月5日付 Bloomberg記事)
(※5)ケアンズには現在でもカジノがあるが、ラスベガスやマカオといったカジノリゾートに比べると、その規模は非常に小さい。

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