中期経営計画の落とし穴にはまらないために

―重要性を増すビジョナリー経営―

2013年11月5日

  • コンサルティング・ソリューション第一部 コンサルタント 枝廣 龍人

「中期経営計画と将来の数値目標を設定し、達成期限を設け、行動に落とし込む」、「計画を実行するにあたっては、PDCAサイクルを回す」。こうした行動プロセスは、一見、経営戦略のあり方として正しいように見える。しかし、本当にその計画はそれだけで機能するだろうか。

数値目標としての中期経営計画には多くの落とし穴がある。例えば、次のような点である。

 ・外部環境の変化が激しい場合、数値目標を設定しにくい

 ・利益回収までの期間が長い場合、3年や5年の区切りが馴染まない

 ・新規事業であり、現場が目標達成のために何をすべきか分からない

 ・目標達成に対する現場のモチベーションが低く、作りっぱなしになる

 ・厳格な数値目標の設定とモニタリングが、かえって現場の創意工夫を削いでしまう

 ・目標設定を誤り、組織を誤った方向に導いてしまう

こうしてみると、中期経営計画の落とし穴は意外と多いうえ、はまりやすい。「中長期経営計画は作ってはいるが、あくまで対外的なもの。本当の戦略はその場の状況に応じて柔軟に変化させている」という経営者も少なくないだろう。数値目標を重視するあまり、社員がコンプライアンス違反を起こしてしまうケースも想定し得る。

それでは、中期経営計画はどうあるべきか。いかに人手と時間をかけたとしても、完璧な計画を策定することは不可能である。それを補完するのが、ビジョンの共有を前提とした経営、すなわち「ビジョナリー経営」である。「ビジョナリー経営」とは、その企業の「社会的ミッション」を社員に浸透させ、それを現場での行動原理とする経営戦略を指す。この戦略は、特に外部環境の変化が激しく複雑化した産業や、不測の事態が起こりやすい未開拓の市場において効果を発揮するほか、グローバルに拠点を構える企業や、持株会社など分権型のガバナンス体制を採る企業にも適していると言われる。現場の逐一の監視を行わなくても、経営者と現場がコアとなる戦略と社会的ミッションを共有していれば、現場によるスピーディーかつ筋の通った判断が期待できるためである。

実は、こうしたビジョンの重要性を再確認するカルチャーショックが、小職のMBA留学中にあった。とあるコンサルティング・プロジェクトの課題で、グループディスカッションの結果から、持ち時間20分のプレゼンテーションに対して50枚のスライドを作ることになったのである。「これではあとあと大規模な修正が必要になる」「最終形を意識して構成をもっとスリム化すべき」と言ったのだが、提案は却下。結局、「ほれ見たことか」と、プレゼン直前になって、3日3晩の大修正を行う羽目になった。しかし、アメリカ人は悪びれる様子もなく、最終的には素晴らしいプロダクトができあがったことに満足気なのである。逆に「ほれ見たことか」と返されてしまった。

慎重で計画性の高い日本人が集まったとしたら、このようなケースは起こりにくいだろう。しかし、上記のようないわゆる無計画さが、アメリカの強さの源泉かと感じたのも事実。ロードマップや中間目標は存在しないが、最終的なゴールに対する認識さえ一致していれば、紆余曲折を経て、新たな情報を取り入れ、方向性を修正しつつ、最終的にクオリティの高いものを仕上げることができる。なお、元英国首相サッチャーは、「アメリカ人は、正しいことをすると期待していい。ただし、その他のすべての誤った方法を試した後に」と言ったという。まさにアメリカンスピリットを的確に表現したフレーズであると考えている。

さて、計画策定も重要であるが、計画を実行するのはあくまで現場である。そして現場の環境は日々変化する。中期経営計画がうまく機能していない場合には、まず、企業のミッションを社員一人一人に根付かせる仕組みが日々のオペレーションや人事制度に採り入れられているか、確認するといいだろう。社内大学を設立するという手もある。組織のグローバル化や現場の機動的運営が求められる中、ビジョナリー経営はますますその重要性を増していると言えよう。

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