上場会社に望まれるSRとIRの連携・融合

~2013年株主総会シーズンの論点整理~

2013年2月25日

  • コンサルティング・ソリューション第一部 主任コンサルタント 藤島 裕三

年度末が近付いてきた。3月期決算企業の株主総会担当者にとっては、招集通知など関連資料のドラフト作成や総会当日までのスケジュール設定など、諸々の準備作業が本格化する時期である。とりわけ株主の議決権行使による各議案の賛成率は、総会担当にとって何としても高めたい重要事だろう。多くの賛成票を得るためには、議決権行使結果に影響力を持つ機関投資家に対して、自社のコーポレートガバナンスに関する様々な事項につき、適切な情報開示を通じてアピールする必要がある。

しかし総会準備ではSR(株主対策)の思考に基づき、円滑な(不測の事態が起こり得ない)総会運営を目指して、必要かつ最低限の開示が選好されがちとなる。そこでSRに加えてIR(投資家対応)の発想で積極開示を志向する、すなわちSR視点とIR視点の連携・融合を図ることで、投資家の関心・満足度は高められる。さらには議決権行使の賛成率に止まらず、資本市場の評価に対しても好影響が期待できよう。

次の図案はコーポレートガバナンスに関する論点の関係性を表現する意図で、議決権行使における「賛成票の確保」を重視する考え方を横軸、資本市場における「投資家の評価」を重視する考え方を縦軸として、各論点に対するプラス/マイナス影響、または軸の考え方との隔たりに基づいて試作したものである。横軸はSRの視点、縦軸はIRの視点といえよう。以下、図中の番号に従って個別に各論点を概説する。

図案:SR・IR軸によるコーポレートガバナンス論点
図案:SR・IR軸によるコーポレートガバナンス論点
(出所)大和総研コンサルティング・ソリューション第一部

  1. ①株主還元の方針説明/施策実施(右上)
  2. 剰余金処分案では近年、財務状況を勘案して還元水準に引き上げる余地が存在する場合、相当数の反対票が集まるケースが増えつつある。株主還元は投資家にとって重要な資本回収の手段であり、投資判断に際しても影響力を持つ。相応な水準の配当性向目標、機動的な自己株取得などが求められよう。

  3. ②社外取締役の1名選任(非独立で可)(右下)
  4. 議決権行使助言最大手のISSは今年2月から、社外取締役を選任していない企業の経営トップの再任に反対を推奨する。これまで社外取締役がゼロだった企業が新たに選任すれば、議決権行使におけるマイナス影響は回避できよう。ただし投資家にとっては遅きに失した改善であり、一層の取り組みが急がれる。

  5. ③独立性の伴う社外取締役の複数選任(右上)
  6. 近年に相次いだ国内企業の不祥事なども影響して、独立性に疑いのある社外取締役に反対する、複数選任のない企業のトップに反対するなど、厳しいスタンスを採る機関投資家が増えている。企業側としては、自ら積極的に複数の独立取締役を選任することで、資本市場における評価に好影響が期待できる。

  7. ④独立性の伴う社外監査役の複数選任(右下)
  8. 社外監査役の設置は会社法上の義務であり、投資家は独立性の具備を当然視する。ただしグローバルには社外取締役によるガバナンスが一般化しており、独立監査役によるガバナンス体制を充実させても、投資家の評価は高まりにくい。社外取締役と組み合わせた有効性を、資本市場には説明すべきだろう。

  9. ⑤社外役員の独立性に関する基準(左上)
  10. 昨年から有価証券報告書に義務付けられた記載で、これ自体は議案にならず議決権行使の対象ではない。詳細な独自基準を開示した例も少数の模様。もっとも機関投資家は「独立した社外取締役によるガバナンスの確立」を求めており、独立取締役を継続的に選任する仕組みとして同基準に対する期待は大きい。

  11. ⑥役員退職慰労金の支給・打ち切り(左下)
  12. リーマンショック以降、グローバルなガバナンス議論は報酬ガバナンス、特に"pay for performance"=業績連動報酬が中心となっている。役員退職慰労金は年功報酬の典型とみなされており、同支給議案は否決リスクも小さくない。また打ち切り支給の議案についても、賛成率が極端に低い事例が散見される。

  13. ⑦通常型/株式報酬型ストックオプション(右上)
  14. 業績連動報酬を重視する文脈から、株式報酬としてのストックオプションが注目されている。特にわが国の場合、役員報酬の株価連動性が小さい、役員の株価意識が乏しいという批判から、積極導入が期待される。ISSは近年、同制度の導入議案に関する助言基準を立て続けに緩和、導入促進を後押ししている。

  15. ⑧役員報酬などに関する決定方針(左上)
  16. 有報記載が義務付けられている事項で、わが国では報酬制度全体が総会に諮られることはないが、機関投資家の関心は高い。同記載にて決定プロセスの透明性、業績連動報酬の割合、業績連動部分の評価指標などを説明することは、企業価値向上に対する投資家の信認を得る上で相当に有効と考えられる。

  17. ⑨買収防衛策の新規導入/継続導入(左下)
  18. 最も賛成票の獲得が難しい議案のひとつといえる。わが国ガバナンスはグローバルな信認を得ておらず、経営者の保身による運用が懸念されるためである。一方で持合い解消の売り圧力などで、被買収リスクは相対的に高まっている。ガバナンス全体の考え方と平仄を合わせて検討することが望ましいだろう。

総会担当者におかれては、横軸のSR視点のみに拠ることで議案に関係のない開示に及び腰にならず、縦軸のIR視点を活かして自社コーポレートガバナンスの全体像を積極的に打ち出されたい。株主・投資家の理解を促進することを通じて、議案賛成率のみならず市場評価に対する積極的な影響も期待できよう。SR軸には偏らず常にIR軸を意識すること、これこそが「IR型株主総会」の在り方と考えられる。

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