アジアの成長はこうして取り込め...新成長戦略成功のカギ

2010年4月5日

  • 情報ビジネス推進部 高橋正明
1973年のブレトン=ウッズ体制崩壊前後の大幅なドル安は、第二次大戦後の世界経済が最初に迎えた構造調整だった。戦争直後は、無傷のアメリカと戦災で荒廃した欧州・日本の経済格差は大きく、ドルと各国通貨の固定為替レートはその格差を反映した水準に決められた。しかし、欧州(特に西ドイツ)と日本の急速な経済復興・成長が進むにつれ、経済ファンダメンタルズと為替レートの乖離が拡大した。日独の実質的な経済水準はアメリカに接近したにもかかわらず、アメリカに比べたドル換算した物価や賃金は安いままだったため、アメリカは価格競争力で太刀打ちできなくなり、経済が変調を来したのである。アメリカ経済の競争力回復には、(1)日独の大インフレ、(2)アメリカのデフレ、(3)ドル安/円高・マルク高の少なくとも一つが必要であった。結局、(3)が選択されてアメリカ経済は立ち直り、その後も経済大国の地位を維持している(※1)

今日、これと同じ構図が再現されている。かつての日独に相当するのが主にアジア諸国で、アメリカに相当するのが先進国の中でアジアとの関係が最も深い日本である。アジア諸国と日本の実質的な経済水準の差が急速に縮まっているにもかかわらず(※2)、円換算した物価・賃金が安いままのため、日本の価格競争力が著しく低下し、経済全体が不調に陥っているのである(※3)

1990年には日本の4割に過ぎなかった韓国の実質的な経済水準(購買力平価換算の1人当たりGDP)は、現在では8割まで迫っている(このペースが続けば2020年までに日本を追い越す)が、物価水準は依然として日本の5割前後にとどまっている(※4)。この乖離から生じる価格競争力がサムスン電子など韓国企業の大躍進の原動力であることは疑う余地が無い。中国の乖離と価格競争力・供給力はそれ以上である。

日本にとって深刻なのは、日本経済に対するアジア経済の規模が、かつてのアメリカ経済に比べた日欧経済の規模よりもはるかに大きいことである(※5)。自国経済よりも大きな経済に圧倒的な価格競争力で挑まれているのだから、無事ですむはずが無い。

本来なら、経済ファンダメンタルズと物価・賃金水準の乖離は、為替レートによって調整される。しかし、外為市場でアジア通貨の過小評価が続いていることに加え、アジア諸国の意図的な通貨安政策、さらには日本国内の根強い円安への強い抵抗感により、結果としてデフレという最悪の形で調整が進んでいる。ところが、デフレによる日本の価格競争力回復を上回るペースでアジア諸国が成長しているため、いつまでたっても調整が完了しない。まるで賽の河原に小石を積むようなもので、これが日本中に漂う無力感の根本原因になっている。

急速に老齢化する日本がこの状態を放置すれば、回復不能に至るのも時間の問題である。それを避けるためにはまず、「先進国通貨に対するアジア通貨の上昇」を先進国共通の問題として提起するのが筋だが、米欧が同調しなければ、金融政策のターゲットを金利から為替レートに変更した上で、実効レートで2~3割の円安を目標に円売り・アジア通貨買い介入に踏み切る必要がある。

多くの日本人は「円安はアジア諸国に打撃を与える」と躊躇するだろうが、これは正しくない。復興を遂げた日本に円高が必然だったのと同じく、経済発展したアジア諸国には通貨高が必然である。また、鳩山政権の新成長戦略で謳われている「観光立国」や「アジアの成長を取り込む」ためにもアジア通貨高は欠かせない。訪日外国人増加に最も効果があるのは円安だし、アジア諸国に日本の財・サービスを幅広く購入してもらうためには、通貨の購買力を高めて輸出主導から消費主導に経済構造を転換してもらう必要がある。これが「輸出に偏るアジア&窮乏化する日本」の現状より望ましいことは言うまでもない。円安・アジア通貨高は、日本とアジア諸国双方に有益なwin-win政策なのである。

とはいえ、この診断と処方箋が受け入れられる可能性は低いと言わざるを得ない。「外国にものを言う」ことは日本人が最も苦手とすることだからで、これが、国外から目をそらし、原因をひたすら国内に求め続ける内向的行動につながっている。事実、対立する構造改革派もリフレ派も根本原因が国内にあるとする点では一致しているし、米欧やIMF、世界銀行から切り上げ要求が相次ぐ人民元に関しても日本は沈黙したままである。内向性の克服こそ、アジアの成長を取り込んで日本を復活させるカギなのだが。

(※1)1985年にはドルの実質為替レートが70年の水準に逆戻りしたため、同年9月に米日独英仏5カ国がドル安を促すプラザ合意を結び、ドルは急落した。
(※2)1990年に比べた2009年の1人当たり実質GDPは、日本が1.1倍、韓国が2.3倍、中国が5.4倍である。
(※3)総務省「労働力調査」によると、労働力人口に占める製造業就業者の割合は、1992年の23.9%から2009年には16.2%に急減している。
(※4)JBpress「韓国はもはや勝ち目のない弱者に非ず」「世界に躍進する韓国のさらなる野望」
(※5)実質的な経済規模(購買力平価換算GDP)を比較すると、1970年にはアメリカと日独英仏4カ国計がほぼ等しかった。一方、現在では中国だけで日本の約2倍である。
実質実効為替レート

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