3割は高い!患者の自己負担割合

2009年5月21日

  • 公共政策研究所 齋藤哲史

現在、医療機関の窓口で支払う患者の自己負担割合は、6歳までが 2割、7~69歳が3割、70歳以上が1割(現役並みの所得がある人は3割)である(※1)。新聞報道等によると、65~74歳の負担割合について、厚生労働省が2割に統一することを検討中だという。筆者は、これを65歳~74歳だけではなく全世代に拡大し、さらには負担割合を1割に統一することを提案したい。

公的医療保険の目的は、公平性を担保しつつ、疾病等に伴う金銭損失のリスクを軽減することであるから、特定の年齢層だけを優遇することは基本的に望ましくない。そう言うと、高齢世代は受診する機会が多く、負担が大きいという反論が帰ってくることが多い。確かに、高齢になると、体の何処かしらに変調を来たし、医療機関のお世話になる機会が増えるだろう。また、収入が年金しかないため、今後のことを考えると不安だ、という主張も心情的には理解できる。

しかし、それは現役世代とて同じであろう。むしろ、不安・負担感は現役の方が強いかもしれない。昨今の厳しい雇用情勢や高い社会保険料負担(今後も増加し続ける)に加えて、住宅ローンの返済、子育て費用、さらには自らの老後資金までをも準備しなければならないからだ。その意味では、確実に年金収入が得られる高齢世代の方が、収入は安定しているとも言えよう。しかも、65歳以上の世代の就労期は、日本経済の好調期と時をほぼ同じくしているから、相応の貯蓄があるはずだ。さらに、高齢者の医療支出は多いように思えるが、患者1人あたりで見ると、必ずしもそうとは言えない。入院医療費にいたっては現役世代の方が多くなっている。

そう考えると、自己負担が増えて大変なのは全世代共通なのだから、一律に引き下げたほうが保険の目的に合致するし、無用な世代間対立を煽ることもなくなろう。

年齢階級別患者1人あたり医療費(65歳~69歳=1)H17年度

次に、負担割合を1割にまで引き下げる件についてであるが、我が国で自己負担割合が引き上げられてきたのは、無駄な受診を抑えて医療費を抑制するためだ。しかし、患者負担を増やしても、医療費の抑制効果はそれほど大きくない。というのも、医療は価格弾力性が低いからである。特に、重症患者は負担が増えたからといって治療を中止することができない。命を落とすことになりかねないからだ(人口の1%が医療費の約3割を、10%が約7割を消費している)。自己負担を増やして受診が抑制できるのは、風邪症状や腹痛といった軽症の場合だけである(グラフの右側)。

逆に、高負担によって受診が抑制され、その結果、重症化してしまえば、却って医療費が嵩むことにもなりかねない。自己負担引き上げは、医療費抑制という意味では逆効果なのである。

医療費の人口分布(人口を医療費の多い順から1%ごとに並べてある)

ただし、自己負担ゼロは頂けない。安いから暇つぶしに病院へ行こう、といったモラルハザードが発生しかねないからだ。実際、1970年代に実施された老人医療費の無料化によって、病院がサロン化し、無駄な老人医療費が増大したのは有名な話である。したがって、一定の負担は必要となるが、それは保険の濫用を防止できる程度の負担、つまり1割負担で十分だということである。

各種アンケート結果等を見ると、将来の医療費負担を心配する声は老若含めて多い。国民の将来不安を少しでも和らげたいと政府が考えるのであれば、患者の自己負担は1割に留めるべきであろう。尚、患者負担を1割に引き下げるからには、それに代わる財源が必要になるが、そのことについては別の機会で触れる予定である。

(※1)70~74歳については06年の制度改正により2割負担となるはずだったのだが、激変緩和措置の延長により現在も凍結中。

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