些細な足元の国際化から始める医療の国際展開

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医療機器は人の健康と生命に関わるため、一般医療機器など一部を除いて認証審査等の制度・規制が厳しい。機器を使用する際のリスク度合いによっては治験や臨床試験が必要で、新規参入のハードルが高いことも十分頷ける。医療の国際展開を推進する関係各省庁による取り組みの中でも、外国の医療機器に係る認証審査等の規制対応は大きな課題のひとつだ。


厚生労働省は、日本で承認を受けた医薬品や医療機器の審査が諸外国において迅速に行われるよう、日本における医薬品や医療機器の開発から承認に至るプロセスについて理解を得る活動を行っている。その成果例としてメキシコでは、日本の医療機器規制が同国と同等と認定され、2012年1月以降、日本で認証、承認された医療機器については迅速審査が適用されている。またインドでは、2015年7月以降、日本で認証、承認された医療機器につき、これまで求められていた品質管理の国際基準への適合性証明が不要となった。
日本でも、外国で適切な手続きに従い認められた医療機器であれば日本国内での使用を認める方向にある。2015年10月に大筋合意に至った環太平洋パートナーシップ(TPP)協定において、他の締約国の「適合性評価機関」に対し、自国または他の締約国の「適合性評価機関」に与える待遇よりも不利でない待遇を与えることが盛り込まれた。これを受け厚生労働省は昨年3月、海外の民間認証機関が安全性を認めた医療機器を国内でも使えるように医薬品医療機器等法(薬機法、旧「薬事法」)を一部改正する方針を表明した(ただし、TPP協定は2017年10月時点では未発効)。安全性確保が前提だが、基準・認証の相互承認を促進し、国際的調和を図ることは、非関税障壁の撤廃、貿易の自由化・円滑化につながる取り組みである。外国の先進的な医療機器が日本で導入され、逆に日本の優れた医療機器が外国で普及することは、日本と世界の保健衛生向上につながり、拡大する世界の保健医療市場の需要を日本企業が獲得していくことにもなる。


以上のような二国間・多国間の規制調和が図られるには、今しばらくの時間が必要だろうが、現状でも個別企業等が対応可能な策はある。すなわち、米国食品医薬品局(FDA: Food and Drug Administration)への届出・承認、あるいはEUにおける医療機器の販売要件である CEマークを取得していれば、欧米以外の国において認証、承認が円滑となる場合があり、医療機器で海外展開を目指す場合はこれらを取得しておけば有利である。
もちろん、相当のコストを要するため、負担力の限界がある中小企業にとってこれらの承認取得等が容易なわけではない。ただ、新興国の中には、FDA、CEマークに限らず、外国で適切に認証、承認された医療機器である旨を証明すれば当該国の認証、承認手続き等が簡素化される制度を設けていることがある。他の条件が同様ならば、こうした簡素化制度の有無が進出先選定条件のひとつとなろう。


日本において医療機器を製造販売するためには、薬機法に基づき、人体に対するリスク度合いに応じた4つのクラスごとの認証・承認等が必要となる。具体的には、クラスⅠ(一般医療機器)は独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)への届出、クラスⅡ(管理医療機器)は民間の第三者認証機関(2017年10月現在14機関)による認証、クラスⅢ及びⅣ(高度管理医療機器)は大臣承認(審査はPMDAが実施)が必要である。ここで、こうした認証、承認の事実を示す証書が英語併記となっていれば、進出先国に対する証明書類としてそのまま受け入れられる可能性があり、進出先国言語への翻訳コスト負担も比較的小さく済むだろう。
ただ、クラスⅠに分類される機器は、「届出」のみで手続きが完了する反面、届出が認められたことを示す特定の文書が発行されるわけではない。特定非営利活動法人海外医療機器技術協力会(OMETA)は、このような医療機器の輸出に対応するため、厚生労働省の監督のもとに製造販売(製造)できることを証明する文書を発行しているが、進出先国の規制当局から、認証、承認の証明書類として不十分とされることも少なくないようだ。「届出」という行為の性質上、結果を通知する文書が発行されないのはある意味当然だが、届出書類を日英二か国語での記載が可能な書式とし、さらに、適切に受理された旨の文書が日英二か国語表記で発行されれば、追加的なOMETAへの申請がなくとも、外国市場での販売が容易となる可能性がある。医療の国際展開という大きな目標に対し、足元の小さな国際化対応が意外にも大きな効果を挙げるかもしれない。医療の国際化推進でできることはまだまだ多い。

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