アジアンインサイト
インフラ開発におけるミャンマーの懐事情

~官民連携による外資導入は避けられない~

2017年9月21日

  • アジア事業開発グループ シニアコンサルタント 天間 崇文

昨今目覚ましい発展を見せるミャンマーだが、国民所得の上昇など着実な進歩がある一方、電力や道路など、主要公共インフラの不足が指摘され続けて久しい。その根本的な原因が政府の公共事業資金の不足にあることもまた、当該分野の両国政府・民間関係者にはよく知られた事実である。その財源不足を補うため、テインセイン前政権は大規模な借款を日本など外国から導入したが、その政権後半には借款導入による対外債務の増大がミャンマー国内外で懸念され始めた。2016年に成立した現政権もまた、できるだけ借款に頼らず対外債務を抑制する方針を採用している。

ミャンマー政府のこのような懐事情の解決手段として期待されているのが、公共インフラ事業への民間資金の導入であり、そのための官民連携(PPP:Public-Private Partnetship)制度の整備推進である。実は、過去の軍事政権時代のミャンマーには、官民連携の原型と呼びうる事例が道路建設等の分野で既に存在していた。しかし、官民間での重要契約項目(例:事業破綻時の政府責任など)が個別案件ごとに異なるなど、制度上の不備により、積極的な民間投資を促すには至らなかった。加えて、近年では電力分野において、タニンダーリ管区やモン州といった各地で外国企業による実現性調査が数多く実施されているように、外資がその事業性に大きな期待を寄せる案件も少なからず見られる。しかしここでも、用地取得、売電価格の設定、発電燃料の供給などの面で、ミャンマー政府の責任が不明確であったり、条件交渉が難航するなど、事業開始に漕ぎ着けた例は少ない。
そこで前政権は、アジア開発銀行(ADB)等の国際機関の支援を受け、2014年から国際水準の官民連携制度の構築に着手したものの、2年後にはその志半ばで政権交代を余儀なくされた。幸い、現在のNLD政権は前政権の方針を引き継いでおり、2017年2月にはADBとの間で運輸交通分野でのPPPに関する新たな戦略・事業アドバイザリー契約を結んでいる。だが、助言者が誰であろうと、肝心の民間資金をどこからどれだけ導入すればよいのだろうか?

その答えは、過去の関連調査からインフラ資金の需要と供給の規模を概算することで浮かび上がる。たとえば、2014-2016年にかけて国際協力機構(JICA)とADBが発表したミャンマーにおけるインフラ需要の推計結果を比較したのが、図表1である。

主要文献に見られるミャンマーのインフラ投資需要予測の比較(10億ドル)

これらの数字を見ると、電力、運輸交通、通信の3分野の主要公共インフラだけで、2030年までに総額約400億ドル(約4~5兆円)相当以上が必要であろうことが推測される。この金額規模は、2016年のミャンマーのGDP(約663億ドル:IMF統計)の約7割に相当し、2030年までの約15年にわたる単純な平均では、毎年約26億ドル(約3,000億円、2016年のミャンマーGDPの約4%に相当)のインフラ開発資金が必要という計算になる。

これに対し、ミャンマーへの主要な資金提供者であるJICA、ADB、世界銀行(WB)からの、民主化以来の過去5年間(2012-2016年)の主要インフラ案件の支援額の総計は、約60億ドル(単純年平均では約12億ドル)でしかない。上で指摘したように、財政難のミャンマー政府がこれ以上の勢いで今後新たに借款を受け入れるとは考えにくく、要するに、国際支援を含む公的資金だけでは、先述のインフラ需要はとうてい賄えない。
では、民間資金は、借款だけでは不足する残り約14億ドル/年を補えるのだろうか?近年のミャンマー政府の投資企業管理局(DICA)の統計によれば、2014/2015年度以来、電力及び石油・ガス分野においては、国内民間投資はほぼ見られない。政権交代前の駆け込み投資が急増した2015/16年度でさえ、運輸・通信分野がようやく年額10億ドル程度、その前後の年は3億ドルに満たない(図表2)。反面、これら分野(電力、石油・ガス、運輸・通信)合計での外国投資額は2014/2015年度以来約17~40億ドルの規模を維持しており、積極的な投資が継続的に行われていることが窺える(図表3)。投資額の全てがインフラ構築に直接充てられるわけではないものの、先述の不足額を賄う規模を持つ民間資金は外資以外にない、ということはおわかりいただけるだろう。

このように、資金規模の単純な考察だけでも、ミャンマーの主要インフラ事業の推進には、国際水準のPPPの構築を通じた大規模な外資導入が必須であることが容易に見てとれる。加えて、現代的公共インフラに必要な技術水準や、国内投資家の電力分野での実績不足を考え合わせれば、外資の導入が避けられないことはますます明白だろう。

近年のミャンマーの国内民間投資額の推移(金額は100万ドル)
近年のミャンマーへの外国投資額の推移(金額は100万ドル)

発足から既に1年半を経過した現政権だが、未だに独自の具体的経済政策や産業開発方針を打ち出すには至っていない。巷間では、国内外の投資家の一部がその点に不安を感じ始めているという話も耳にする。この状況下にあって、もし現政権がPPP制度の整備を経済政策の柱に据え、具体的な実施に取り組む姿勢を示すことができれば、慢性的なインフラ不足への本格対応として、国内外の投資家の不安を多少なりとも拭えるだろう。また同時に、前政権の関与が比較的薄かったこともあって、現政権の独自色を打ち出す好機ともなりうる。もちろんその道程は容易ではないだろうが、PPP制度の整備が、現政権の優先的な経済政策課題にふさわしい重要性と将来性を併せ持つことは確かである。現政権がPPPを通じたインフラへの民間投資、特に外資導入に本気で取り組み、国民生活の更なる向上と産業発展を推し進めることを期待したい。

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