アジアンインサイト
アジアにおけるウェルスマネジメント・ビジネスの展開

2017年2月23日

  • アジア事業開発グループ シニアコンサルタント 田代 大助

近年、世界を代表する金融機関が、アジアの富裕層向け総合金融サービス、いわゆるウェルスマネジメント・ビジネスに一段と注力している。UBS、シティ、ドイツ銀行といった名だたる金融グループが、運用資産額、顧客数、担当従業員数などのアジアにおける構成比引上げを相次いで表明しており、実際、各金融機関のアジアにおける運用資産残高は概ね拡大傾向にある(表1参照)。

アジアにおける運用資産残高ランキング

この基本的な背景には、中国をはじめとするアジア諸国において急速な経済発展を通じた国民所得の増大、それに連れたHigh Net Worth Individuals(HNWIs)と呼ばれる総資産100万米ドル相当額以上を保有する富裕層人口が着実に増えていることがある。世界のHNWIs人口は2005年の合計873万人から2015年には1,326万人へと増大、さらに2025年には1,808万人に達する見込みだが、なかでもアジアにおけるHNWIs人口は欧米を凌ぐ勢いで増加が続くと予想されている(表2参照)。直近10年間(2005-15年)では137万人と北米や欧州を上回るペースでの増加(増加率にして79%)を見せ、2015年時点で合計310万人に迫っている。これが今後10年間(2015-25年)ではさらに北米と欧州を上回るペースでの増加が予想され、2025年のHNWIs人口は469万人にまで増大するとされる。ウェルスマネジメントに強みを持つ金融機関の多くが、アジアを重要地域として位置付けることは正に自然な流れと言えるだろう。

世界地域別のHNWIs人口推移と増加率

もっとも、国・地域別のHNWIs人口の増大の内訳を見ると、アジアの二大経済大国である日本と中国が圧倒的なシェアを握っていることが分かる。両国の合計数は全体の約6割を占めており、アジアHNWIs人口成長の原動力としてはこの2ヶ国の影響が非常に大きい。それに次ぐのは人口13億人を抱えるインド、そしてアジア・ウェルスマネジメントのブッキングセンターとして絶対的地位を確立しているシンガポールおよび香港が後に続く。

一方で継続的な経済の高成長で注目度が年々増しているASEAN諸国はどうか。シンガポールを除くと各国とも規模が小さいため、データが存在する6ヶ国(マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナム、カンボジア)のHNWIs人口を合計すると、2015年時点で13.8万人、これが2025年には26.5万人まで増大する計算となる。いずれもアジアでは韓国をやや上回って香港に次ぐ6番目に相当するが、増加数ではシンガポールを僅かに抜いてインドに次ぐ4番目まで浮上する(表3参照)。このように、ASEANのHNWIs人口規模も1ヶ国あたりではまだ小さいが、それらを1つのかたまり(国)として捉えれば、アジアの中では一定の地位を築きつつあるとともに、将来的に伸びる余地もまだあるとみることができる。

アジアにおけるHNWIs人口(上位10ヶ国・地域)

現状ではシンガポール以外のASEAN諸国のウェルスマネジメントはまだ歴史が浅く、サービスとして自国内で確たる地歩が固められているとは言い難い。相対的に金融業サービスが進んでいるマレーシアやタイでも、ようやく地場の大手金融機関が専門部署を設置してビジネスに取り組み始めたばかりの段階である。しかもその内容は、本業の金融取引よりもセミナー招待など収益性の低い表面的な優遇サービスに止まっているようだ。

以上のような事情もあって、ASEAN諸国のHNWIsを対象としたウェルスマネジメントは、各国での営業ラインセンス取得の問題はあるものの、今暫くの間、アジア・ブッキングセンターの中核であるシンガポールと香港に担当拠点を持つ先進国出身の有力金融グループが担う状況が続いていくものと見られる。それら金融グループのアジア戦略は、あくまで中国やインドでのHNWIs顧客獲得が中心となろうが、両国に次ぐ成長が期待されるASEAN市場においても、さらにウェルスマネジメントへの取り組みを積極化させる可能性は十分にある。また、それらと伍すべく地場の大手金融機関の中でも、より洗練されたサービスへと強化を図る動きが徐々にとはいえ増えてこよう。アジアにおけるウェルスマネジメント分野については、ASEAN諸国を中心に、世界的な金融グループと各国の大手金融機関のビジネス展開から今後も目が離せない状況が続いてゆこう。

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