ミャンマー銀行業界に変化の兆し

RSS
  • アジア事業開発グループ 吉田 仁

ミャンマーの銀行業界を大きく変化させる可能性を秘めた2つの出来事が存在する。ひとつは信用保証制度の改善、もうひとつはJICAによるツーステップローンである。本稿ではミャンマー銀行業界の課題と、この2つの出来事の意義を説明する。


JICA報告書(※1)やGIZレポート(※2)などが提起するように、ミャンマーの銀行業界の問題点として、厳しい担保要件、短期に限られた融資、さらに本質的には貸出先企業の財務情報の信用性の低さなどが挙げられる。


厳しい担保要件が誕生した理由は、2003年の取付け騒ぎを発端とした金融危機にさかのぼる。2005年5月の中央銀行の通達により、銀行の安全性を高めるべく融資の際に“Strong Collateral”が求められるようになった(※3)。また同通達ではForced Sale Valueの評価も求めており、十分な不動産を有さない借り手は、資金調達が困難な状態にある。この問題を解決すべく、三井住友銀行の協力のもと、信用保証制度の構築が進められ、2014年より国営Myanma Insuranceが信用保証制度を開始した。当初の仕組みは、銀行が担保処分によっても回収できなかった「損金の60%」を保証するものであった。銀行の安全性を重んじ損失発生を嫌う銀行業界にとって、損失が発生しない限り発動されない仕組みは受け入れられないものだった。実際、開始から約1年間、利用実績は皆無だった。この課題を解決すべく、損金の60%ではなく、貸し倒れ時点の「融資残高の60%」を保証する仕組みに変更された(※4)。同記事によれば、保険料は担保でカバーできる部分が2%、担保のない部分が3%とのこと。借り手にとっては、借入利率(※5)に保険料を加えてもマイクロファイナンスや消費者金融(※6)と比べて非常に割安であり、魅力的な水準だろう。銀行にとっても、融資額の40%を担保で回収できれば損失を回避できる。担保要件の緩和に結びつくものとして、信用保証制度の積極的な活用が期待される。


融資期間についても銀行の安全性を高めるべく、1年未満の短期が一般的である。実態としてはロールオーバーにより中長期での借入も可能となっているが、借り手にしてみれば、回収のタイミングを見通せず、設備投資のような長期的な投資活動を阻害する要因であった。中央銀行も同課題を認識しており、2013年8月の通達により、「中長期で調達した資金に相応する分であれば、中長期での貸し出しを認める」との制度変更を実施した。しかし、制度変更後も特に業界慣行に変化はなかった。これに一石を投じるべく、JICAによるツーステップローン事業が実施される。同事業は日本政府よりミャンマー政府に低利で円借款が供与され、それを原資にミャンマーの銀行が中小企業向けに中長期の融資を低利で提供するものである(※7)。中小企業側の期待度は大きく、ミャンマーのマスコミにおいても同事業のことがしばしば報道されている。ミャンマーの銀行が同事業を通じて、中長期融資のリスク管理技術を習得することで、自発的に中長期融資を拡大することを願っている。


中長期融資は短期融資と比してリスクが大きく、信用保証との親和性は大きい。信用保証と中長期融資が並行して動き出すことで、両者が相乗効果を発揮し、銀行業界に大きな変化を誘引することを信じている。


(※1)JICA, “Preparatory Survey on Two-Step Loan Project for Small and Medium Enterprises Development in the Republic of the Union of Myanmar”, Feb 2014.
(※2)GIZ, “Myanmar’s Financial Sector –A Challenging Environment for Banks (Updated Version)”, Feb 2015.
(※3)“Strong Collateral”の詳細な定義は同通達に記載されていないが、不動産と認識されている。
(※4)NNA, 「中小向け信用保証制度を改定:三井住友銀が支援、実情に適合」2015年9月7日
(※5)融資金利は最高でも13%と中央銀行に規定されている。
(※6)マイクロファイナンスの上限貸付金利はプロシージャーによれば年利30%である。消費者金融の貸付金利は年利100%を超えると言われている。
(※7)JICAプレスリリース、「ミャンマー連邦共和国向け円借款契約の調印」、2015年6月30日

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

関連のサービス