アジアンインサイト
カンボジア農業・食品加工産業振興の可能性

キャッサバの例に倣う

2015年8月27日

  • アジア事業開発グループ コンサルタント 太田 紗奈絵

カンボジアはGDPの3割超を第一次産業が占める農業国家であり、同国政府は政策の基本方針(※1)において、農業開発を掲げている。特にコメについては精米の輸出量を2015年までに年間100万トンに引き上げる政策(※2)を実施中であり、他国と貿易協定を締結したり外国から先進的精米技術を積極的に受け入れたりしている。

しかしながら、コメ以外の作物については生産技術、品質管理体制が未熟であり、生産効率も低い。また、コールドチェーンが十分整備されていないため、国外輸出のみならず、国内への供給も確立しているとは言えない状況である。同国で事業を展開している大手小売業や食品加工業は自前で輸送網を確立せざるを得ないため、物流コストが嵩み、特に生鮮品の商品価格を押し上げる要因となっている。

このように、カンボジアの農業・食品加工分野の課題は山積しているのが実態である。こうした中、商品作物としてのキャッサバの生産量がこの10年で伸びていることが注目される。国際連合食糧農業機関(FAO)の統計によると、カンボジアにおける2013年のキャッサバ生産量は800万トンであり、2008年と比較して2.2倍に増加している。また、カンボジア商業省の貿易統計におけるキャッサバの輸出量は、2010年に24,000トンであったのに対し、2012年には151,000トンを超えた。その他キャッサバ由来の加工品(でんぷん、エタノール)の輸出量も増加(※3)している。

このようなキャッサバ生産量、輸出量増加の背景には、隣国であるタイの政策転換が影響している。タイでは2008年に定めた「15ヵ年再生可能エネルギー発展計画(15Years-Renewable Energy Development Plan)」などにおいてエタノール奨励政策を実施し、ガソホール(※4)の利用を促進(※5)している。その影響から、原料となる糖蜜価格が上昇し、代替品であるキャッサバの需要が高まっている。また、タイ国内では原料供給が間に合わなくなってきたため、隣国であるカンボジアがキャッサバの調達先として活用されはじめている。

カンボジアにおけるコメとキャッサバの生産量推移

多くのタイ企業は当初、カンボジア農家からキャッサバを調達し、タイ国内で加工していた。その後必要調達量が増加したため、物流コストとの兼ね合いでカンボジアとの国境付近(タイ側)に加工工場を建設、さらにはカンボジア国内に加工工場を建設し加工品をタイに輸送(輸出)する企業もある。

この展開には、①カンボジアがタイと隣国であること(地理的優位性)、②カンボジアには外資企業の参入障壁がほとんどないこと、③ASEAN域内国であるため関税優遇措置を活用できること、④カンボジアの賃金が比較的安価であること、などの同国の事業投資環境の優位性も大きな後ろ盾となっている。

キャッサバは栽培工程が比較的簡素であることや、細やかな土壌養生の必要がないなどの特性を備えていたため、需要の急増に合わせて生産を拡大することができたことも背景のひとつではある。但し、カンボジア国内で収穫した農作物原料をカンボジア国内で加工して周辺国へ輸出する動きは畜産向け飼料にも広がっているため、課題は多いものの他の農作物についても同様の展開を望むことは可能であろう。

カンボジアとしては、原料のままではなく加工して付加価値をつけたうえで国外に輸出できれば、貿易収支の改善につながる。また、外国企業を誘致し、先進的な加工技術を取り入れることで、農作物加工産業振興の効果も期待できる。将来的には最終製品に近い段階までカンボジア国内で加工することができれば、国内需要への対応も可能となろう。

周辺国の需要を取り込むことで、カンボジアが農業の振興のみならず、食品産業の振興、食料品物流網の構築につなげることを期待したい。

(※1)「第3次四辺形戦略」‘Rectangular Strategy Phase Ⅲ’では①農業開発、②ハードインフラ整備、③民間セクター開発と雇用創出、④能力育成と人材開発 が掲げられている。
(※2)‘Rice Policy’ と呼ばれている。
(※3)2010年→2012年輸出量 でんぷん:13,722トン→16,635トン、エタノール:2,017トン→11,340トン(出所:カンボジア商業省貿易統計)
(※4)ガソリンにエタノール(エチルアルコール)を混入した自動車燃料のこと。エタノールはバイオマスを原料とした発酵法で主に製造され、この添加によりオクタン価を向上させる効果もある。
(※5)詳細は大和総研 アジアンインサイト「メコンのバイオエタノール先進国『タイ』から学ぶ」(吉田仁、2012年3月8日)を参照。

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