アジアンインサイト
新興国向け「日本型郵便インフラシステム展開」の展望と要点

2015年4月9日

  • アジア事業開発グループ シニアコンサルタント 本谷 知彦

新興国の郵便事情

平成25年度に日本国内で取り扱われた郵便物数は年間約185億通である(※1)。これを人口1人あたりに換算すれば、年間146通という計算になる。これほど膨大な物量であっても、日本では郵便物を相手に送れば普通に遅滞なく届く。日本における郵便事業の歴史は古く、1871年(明治4年)東京と京都・大阪間での新式郵便の取り扱い開始が創業の起源である(※2)。以来長期に亘って培った事業ノウハウによって、当たり前のように郵便物が遅滞なく届く今日の郵便サービス品質が実現されている。

ところが海外、特に新興国の郵便事情に目を向ければ、“郵便物を送ったのに届かない”あるいは“届くまでに非常に日数がかかる”ことが常態化している国も珍しくないようである。当該国の国民がそのような状況をどのように受け止めているのか興味深いが、仮に“郵便サービスとはそういうもの”との認識だとすれば、郵便事業体と国民との間に信頼関係が構築できているか疑わしい。郵便を含む広義の物流サービスの質向上は、社会経済の発展に必要不可欠とされている。ましてや郵便にはユニバーサルサービスが求められるため、そのような国にとって郵便サービスの質向上は社会的課題であると考えられる。

郵便サービスの浸透度比較

そこで、各国の郵便サービスが社会経済に対しどれほど浸透しているかをみるため、郵便事業の売上金額(※3)の名目GDP比(※4)を算出し、日本を100として各国の相対値を算出した。これによれば、アメリカが100.8と日本とほぼ変わらず、フランスは215.3とハイスコア、カナダは81.0、イタリアは60.3とまずまず。一方で、アジアでは中国25.1、インド5.4となり、更にアセアン諸国ではマレーシア22.4、ベトナム14.4、インドネシア6.1、フィリピン5.0、カンボジア4.9、ミャンマー1.7と軒並み低い値となった。名目GDPと郵便事業売上の相関関係については別途議論の余地ありとも思えるが、アジアの新興国では、郵便サービスの社会経済への浸透度はかなり低いことが推測できる。

新たなインフラシステム海外展開としての郵便

現在政府内には「経協インフラ戦略会議」が設置されており、日本の様々なインフラシステムを海外展開しようとする動きが活発化している。当会議発表のインフラシステム輸出戦略(※5)の記述には、「いわゆる新興国を中心とした世界のインフラ需要は膨大であり、急速な都市化と経済成長により、今後の更なる市場の拡大が見込まれる」とあり、続いて「(中略)我が国の成長戦略・国際展開戦略の一環として、日本の『強みのある技術・ノウハウ』を最大限に活かして、世界の膨大なインフラ需要を積極的に取り込むことにより、我が国の力強い経済成長につなげていくことが肝要である。」とその意義が説明されている。

この中で、郵便も「新たなフロンティア分野となるインフラ分野」の一つに位置付けられている。ここで言う郵便インフラシステムとは、郵便物への押印や区分の自動化のためのハード機器類、及び郵便物取り集め・配送のための車両等が真っ先に想定される。ただし、それらはソフト面としての郵便業務の技術協力があって初めて有効活用でき得るものである。

郵便インフラシステム展開の特徴とは?

上述のハード機器類や車両は郵便事業用である。しかし郵便インフラシステム展開は、何も郵便事業の枠に限定されることはない。例えば日本では約2万4,000もの郵便局という事業インフラをベースに金融サービス(銀行、保険)、物販サービスが提供されている。程度の大小はあれども、これらの事業領域に関し専門家による技術協力及び関連商品の提供の可能性が考えられる。

また、今の時代、業務推進にICTは必要不可欠である。高度な業務システムをいきなりフルセットで導入することは現実的ではないが、重要度の高い業務への部分導入であれば、費用対効果のクリアを前提に相手郵便事業体の理解を得ることもできよう。このように、郵便インフラシステム展開は、郵便事業推進のために必要なハード機器類以外にも、上述のように技術協力も含め提供可能な事業領域が幅広いという点が特徴的である。

要点は何か?

郵便インフラシステム展開には二つの要点があるように思われる。一点目は、ハード機器類は単なるハード機器類であるため、当たり前であるがやはり郵便業務に関する技術協力が大切だという点である。日本のように遅滞なく確実に届く郵便サービス実現のためには、郵便業務の技術協力は不可欠であり、その巧拙にインフラ展開の成果が左右されやすいと想定される。更には国民が郵便サービスを積極的に利用するための郵便活性化施策の手伝いも必要であろう。

二点目は、相手国の裨益効果に関する点である。経協インフラ戦略会議では、2020年にインフラシステム全体で30兆円という規模の受注目標が掲げられている(※6)。インフラシステム輸出では日本側に果たしてどれだけの果実がもたらされるのか、そのボリュームに目が行きやすい。郵便インフラシステム展開の特徴が事業領域の幅広さとなれば、期待も膨らむ。しかし、相手国にメリットがあってこそのインフラシステム展開。相手国の郵便事業の発展が国民の社会生活に役立ち、産業活性化に資するとの理解に立てば、相手国の国民、相手国の民間企業、日本側民間企業、計3者の「Win-Win-Win」モデルであることが望ましい。

(※1)出所:[日本郵便株式会社]プレスリリース「平成25年度引受郵便物等物数」(2014.5.14)より
(※2)出所:[日本郵政株式会社]会社情報より
(※3)出所:[万国郵便連合]Global or regional estimatesより
(※4)出所:名目GDP[国際連合]国連統計より
(※5)出所:[経協インフラ戦略会議]第4回 経協インフラ戦略会議(平成25年5月17日)より
(※6)出所:[経協インフラ戦略会議]第6回 経協インフラ戦略会議(平成25年10月29日)より

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