アジアンインサイト
中国全土の土壌汚染状況調査の公表と、土壌汚染への日本の経験

2014年6月18日

  • アジア事業開発グループ シニアコンサルタント 横山 幹郎

中国の環境保護部と国土資源部は2014年4月17日、2005年から7年以上をかけて実施されてきた土壌汚染状況の調査結果を公表した(※1)。調査は、11種類の汚染物質について、全国的な把握を目的に実施され、土地の利用用途別に5段階で汚染の評価が行われた。これまでも産業化や都市化による経済発展の影として、水質汚染や大気汚染の悪化がたびたび指摘されてきたが、調査では、企業(工場)用地、工場跡地、工業園区では約3割以上の調査地点で、基準値を超える汚染が発見され、工業用地、都市部の汚染の深刻さが改めて明らかとなった。

また今回の調査では、農地・林・草原・未利用地も調査対象であり、中でも農地での土壌汚染が注目された。農地は、中国政府が最も積極的に支援を進めている三農(農業・農村・農民)セクターの生活基盤であり、また全国民への安全な食の供給・健康の確保の面からも、様々な役割を担っている。今回の調査結果をみると、基準値以上の汚染が全調査地点の約2割で発見され、主たる汚染物質として、カドミウム、ニッケル、銅、砒素などが挙げられた。2000年以降これまで、中国国内・国外の研究機関から、中国国内で生産されるコメのカドミウム汚染と健康被害への警告が行われてきた。特に非鉄金属産業が盛んな中国南部の湖南省で生産されたコメのサンプル調査では、半分以上から基準以上のカドミウムが検出された。同地のコメは広東省等へも流通しており、都市住民への影響も大きいことから、汚染被害の拡大への注意が喚起され、一気に関心が高まった。しかし、今回の公表では、地域的な汚染状況については非常に簡潔な記述に留まり、具体的な省や都市毎の土壌汚染の状況は公開されなかったことで、より汚染状況の深刻さが感じられた。

一方、日本でも、カドミウム汚染による被害は70年代まで多発し、健康被害への補償、汚染された農地の復元には、長い期間と大きな犠牲を払うこととなった。その後の国民の食品安全や環境への意識の高まりを受け、現在では厚生労働省、環境省、農林水産省等、複数の行政機関がカドミウム汚染や土壌汚染対策の制度やガイドラインを構築している。これら取り組みの推進にあたっては、行政だけではなく土壌汚染の調査機関や処理事業者など民間事業者が参加しており、地域ごとに汚染地域の把握、汚染対策の進捗、汚染地域の解除までの状況を国民に公開するシステムが出来上がっている。また現在でも日本人が食品から摂取するカドミウムの4割はコメが起源であり(※2)、コメを含む農作物の栽培にあたっても、カドミウムが吸収・蓄積されにくくする品種改良や耕法普及にむけた研究成果が蓄積されている(※3)

中国政府は、2011年に重金属汚染総合対策第12次5カ年計画を策定し、土壌汚染の防止・浄化に対する取り組みを本格化させることを謳っている。今後は、土壌汚染対策に係る技術だけでなく、政府と民間の役割分担の在り方の検討や、地方政府の管理・監督機能の強化も必要になろう。このような状況において、日本は過去の過ちと、その後の議論を通じて構築したカドミウム対策の取り組みを、負の遺産とすることなく、国際協力・交流の一環として中国側と話し合いを進める姿勢が、今後益々重要となろう。

(※1)中国環境保護部 环境保护部和国土资源部发布全国土壤污染状况调查公报
(※2)厚生労働省医薬食品局食品安全部 食品に含まれるカドミウムについて
(※3)農林水産省 食品中のカドミウムに関する情報

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