中国の健康サービス産業がこれから発展か

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『健康サービス産業の発展促進に関する若干意見』が10月14日付で中国国務院より発表された。同意見によれば、2020年までに全年齢層をカバーし、内容が豊かで合理的な構造を備える健康サービス産業システムをおおむね構築するという。また、いくつかの著名ブランド及び相互にシナジー効果が期待できる健康サービス産業クラスターを育成し、更に、ある程度の国際的な競争力を形成することで、産業規模が8兆元(108兆円)以上に達することを目指す方針である。当該意見で定義された健康サービス産業は、カバーする範囲が広く、産業チェーンが長い。主に医療サービス、健康の管理と促進、健康保険及び関連サービスを含み、医薬品、医療機器、保健用品、保健食品、ジム製品などサポート産業も含まれている。


国務院が健康サービス産業を取り上げたのは今回が初めてではない。過去の情報を見ると、8月28日付の常務会議で、健康サービス産業の発展を促進する方針が既に確認された。参入基準を緩和するほか、介護サービス支援を強化することも明らかにされている。また、医薬品、医療機器といった周辺産業を育成する考えも示された。今回の同意見は当該方針をより詳しくしたものであるといえよう。


健康サービス産業を発展させることが国レベルで提起されたのは、次のような要因が考えられる。


一つ目は、国民の収入と消費水準の向上に伴い、健康サービスに関わるニーズがますます大きくなったことである。特に中流やハイエンド層の健康、健康管理、健康促進及び健康コンサルティングに関するニーズがますます高まった。ハイテンポな生活や仕事からのプレッシャーを受けたり、生活習慣病にかかったりして、健康状態が芳しくない人は年々増えてきている。また、人口構造の変化及び平均寿命の伸長により、高齢化社会に入りつつある。


一方、現在の健康サービス産業は、まだこのようなニーズに応えることができていない。養老施設のベッド数は不足しており、公立病院がメインの医療機関である現在、「看病難、看病貴(診療を受けるのが難しく、病気を治すのが高い)」が常態となっている。健康サービス産業向け人材の育成の面においても、医学を除いた健康関連専攻学科を設置している大学はまだ極めて少数で、巨大なニーズに対応するための人材は遥かに不足している。


二つ目は、中央政府の掲げる目標である「穏増長、調結構、促改革、恵民生(成長の安定化、構造の調整、改革の促進、民生の改善)」と密に関わっていることである。近年に入り、中国経済の成長が減速しており、経済を活性化するために、政府が積極的な政策措置を出すことが必要である。健康サービス産業は、サービス産業における新興分野であり、当該産業を発展させることはサービス産業の全産業に占める割合を引き上げるという構造調整の目標とも一致しており、同時に民生の改善や改革の促進とも繋がっている。


このような背景から、中国の健康サービス産業は絶好のチャンスに恵まれていると言えよう。健康サービス産業が発展するためには、中国の民間企業による注力はもちろん不可欠だが、健康サービス産業で進んでいる日系企業を含む先進国企業による参入も極めて重要だと考える。


外資系企業による参入について、同意見では奨励の態度を取っていると読み取れる。例えば、発表された主要項目の1つである医療サービスの発展への注力では、多元的な医療機関パターンの形成を速めることが提起されている。中国企業と外資企業とが合弁や合作の形で医療機関を設立する際の条件をより一層緩和し、条件を揃えている海外資本による独資医療機関の設立を、試験的に徐々に拡大することが明確に盛り込まれている。


また、政策措置の面では、法令に参入禁止と規定されていない分野であれば、民間資本に対し開放し、開放分野も徐々に拡大する。国内資本に対し開放する分野であれば、外資に対しても開放する。リハビリ病院、老年病病院、児童病院、介護施設など現在不足している医療機関の立案、開設、業務資格などについては、審査認可手続きを簡素化させるなどの内容が明記されている。


但し、医療サービス分野の外資系企業に対する開放政策をこれまでの政策と比較すると、リハビリ病院、老年病病院、児童病院、介護施設が明確に提起されたことを除き、それほど大きな変化は見当たらない。政策上では海外資本による合弁や合作医療機関の設立が試験的に認められたのは1989年と比較的早く、『中外合弁、合作医療機関暫定弁法』が出されたのは2000年頃、独資医療機関の試験的な設立が認められたのは2010年末頃だった。現状では、外資系医療機関は衛生管理部門だけで区、市、省の衛生局(庁)ないし国家衛生・計画生育委員会に所管され、更に疾患予防コントロールセンター、食品薬品監督管理局、社会保障など複数の行政部門の監督・指導を受け、依然として制限が多く、税負担が重い。


国家発展改革委員会によると、現在、国家衛生・計画生育委員会、財政部、国家発展改革委員会、国有資産監督管理委員会など部門は約15項目の重点任務について具体的な政策をつめており、一部は年末頃に発表される予定である。


現段階では、具体的な措置が発表されていないため、医療サービス分野の外資系企業による参入が、これまでとどれほどの違いがあるのかは不明確であるものの、成長産業と位置づけられる健康サービス産業のこれからの動向に注目したい。


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