「中国大媽」による金購入騒動の真相を探る

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メーデーのゴールデンウィークから1ヶ月以上も過ぎたが、「中国大媽」(注:中国の50代~60代の女性のこと。)がその前後に起こした金購入騒動が今だに人々の話題となっている。

国際金価格が4月12日に30年ぶりの暴落したこと及び4月中・下旬にさらに価格の下落が加速したことを受け、ゴールデンウィークに北京、上海、広州、杭州、南京など中国本土の都市だけではなく、金、特に金装飾品の価格が本土より魅力的である香港にも金を買い求める本土からの旅行客が殺到した。マスコミによると、ゴールデンウィークまでの10数日間に、「中国大媽」は1,000億人民元(1.6兆円)で合計300㌧の金の現物を買い捲った。金価格が下げから回復基調に向かい上昇し続ければ、「中国大媽」が「ウォール・ストリートの金融界の大物」に勝ったという喜ばしい中国式神話が続いたのかもしれないが、金価格は4月25日から5月8日にかけてほぼ横ばいの状態を続け、その後下落傾向に転じた。「中国大媽」という言葉も金融・資本市場における一般消費者、特に衝動的な行動を採る投資家をからかう言葉となっている。

金の現物を買い捲る現象は早くも2012年10月頃から現れた。マスコミによると、北京の大型宝飾専売店である菜市口百貨店では、同年10月のゴールデンウィーク(国慶節の週)に3,500万人民元で95㌔の金塊を購入するという史上最大の個人による金塊買いがあった。百万人民元以上の金塊買いも数件あった。更に2013年春節の連休では、中国全土の金の現物類の売上高が2012年の春節期と比べ38%も増加した。

金を購入する消費者の生の声を聞くと、購入理由は人によって多少異なるが、子供の結婚への備え、金銭面に余裕が出たから、インフレに対抗、純粋の投資の何れかしかない。これらの理由から中国人の文化的伝統や経済的実情が見られる。金が富のシンボルとされてきたため、人々は経済成長に伴って可処分所得が拡大すると、派手な黄金の装飾品を買って身につけるのが良く見られ、結婚のようなめでたいことがある時は、新郎の親が新婦のために「三金」と呼ばれるネックレスや指輪、イヤリング類の金製品を用意するのが一般的となっている。また、金に価値保持の力があると思われるため、物価上昇が続く中、インフレ対抗の手段ともされている。また、大勢の中国人が同時期に集まって金を買ったことについて、中国人の投資手段が乏しいからとマスコミや一般の人々は見ており、人々の財産性収入を増やすために投資手段を増やそうと訴えている。

果たして中国人の投資手段が本当に乏しいのか、そして人々の財産性収入を増やすために何をすればよいのかについて検討してみたい。

改革開放以来、中国人の投資手段も多様になり、思いつくままあげると、銀行預金、株式、債券、金融デリバティブ商品、信託商品、有限組合商品、銀行及び投資銀行によるウェルス・マネジメント商品、公募ファンド、PEファンド、不動産、大口商品取引、金、骨董品、美術品、中国ならではのマホガニー、黄花梨、和田玉(注:軟玉で、中国の新疆ウィル族自治区のホータン(和田とも書く)地区で採取される玉のこと)まで、……先進国にあるものは中国でも揃うようになった。このため、投資対象は形式上は乏しくはないはずである。

だが、投資対象がこのように多様に存在しているのに、投資手段が乏しいと思われることにもそれなりの理由がある。

改革開放を機に、中国経済は計画経済から市場経済に移行し、一部の中国人は市場経済の波に乗って短期間で金持ちになった。これもまた他の中国人の夢となり、投資を通じて資産運用する際にも、高いリターンを期待するようになった。個人投資家にこのような心理があるのに対し、既存の投資手段ではこのような期待に完全に応えられないのが現状である。

銀行預金の場合、2010年から中央銀行が発表した1年物基準金利は消費者物価上昇率に勝てない時期が長く、銀行預金すると、お金は目減りしてしまうだけ。株式投資の場合、株価が低迷し、大半の投資家が損をしている。それ以外の金融商品への投資は、個人投資家としての専門知識の不足、機関投資家の能力不足やスキャンダルの頻発、参入のハードルの高さなどさまざまな理由から、一般民衆に適していない。不動産投資の場合、中央政府によるマクロコントロールを受け、税負担が重くなったことで、多額の利益を取得することが難しくなり、さらに経済の先行きが不透明な中、不動産投資から撤退する人が多い。骨董品やマホガニーのような場合は偽物が多く、判別しにくく、値段も高いため、一般民衆の手の届く投資対象ではない。

上記のようなことから、投資対象が乏しいことを、満足できる利回りが得られる投資ルートが少ないと言い換えても良い。

中国人の財産性収入を上げるために、中国の実情や中国人の慣習に合う新商品の開発が不可欠だが、投資市場の整備や機関投資家の能力向上・自律も必要であるほか、「中国大媽」自身も個人投資家としての心理、即ち短期間で多額の利益を得ようとする心理について調整し、理性的に自分に合った投資商品を選ぶ必要がある。政府としても民衆の経済の先行きに対する不安を払拭するための措置を取らなければならない。

<参考>

図1
財産性収入の年間総収入に占める割合
(出所)『中国統計年鑑2012』より大和総研作成
図2
中国の1人当たり金年間消費量
(出所)中国金協会、中国国家統計局より大和総研作成

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