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超人気の中国「月嫂」

2012年6月21日

  • 大和総研(上海)諮詢有限公司 趙菁
中国では、「月子」(ユエズ)という言葉がある。「月子」とは、産婦の出産後一ヶ月の間を指す。「月子」の間、産婦は母体回復のため、赤ちゃんの授乳とお手洗い以外はベッドの上で過ごし、お風呂に入ってはいけないというのが中国の風習。また、産婦の栄養補給や赤ちゃんの授乳が順調に行くために、食事には、薄味は基本で、なるべく塩等の調味料を一切に使わないし、丸鶏スープと魚スープをたくさん摂取も必要。月子は産婦にとって人生の中でもっとも大事な時期だと思われている。

そして、80年代からの「一人っ子政策」で中国の家族構成は、「祖父母4人・父母2人・子ども1人」が大部分を占める。一人の赤ちゃんは3つの家庭(父母、父方の祖父母、母方の祖父母)の核心で、6つの財布を使われていることになる。赤ちゃんの健康を何より大事にしている家庭がほとんどだ。

この背景の中、「月嫂」(ユエサオ)という人物が登場。「月嫂」とは、月子の間で産婦と新生児の世話をする専門の家政婦のこと。産婦の食事を作り、哺乳方法を指導し、赤ちゃんの世話をする24時間の産褥シッターである。


目前、中国において約5万人が「月嫂」に従事しており、主に大中都市に分布している。上海市家庭サービス業界協会の調査によると、「月嫂」はその派遣会社の基準に従い、高級、中級、初級などの別レベルに分けられている。その賃金はレベル別に1カ月6600元(約8.6万円)、4600元(約6万円)、2600元(約3.4万円)と目安を設けている。ただし、これはあくまで参考価格であり、実際にはもっと高い価格を提示されるケースが多いという。

上海では現在、上質の「月嫂」の賃金は1カ月8000-1万元(約10-13万円)、一般レベルで4000―6000元(約5.2-7.8万円)になっているといわれ、大学新卒者の賃金水準を大きく上回っている。また、予約ができない状況も多く見られるようになっている。2012年は辰(龍)年である。中国では辰年の子供は皇帝のように出世するということで縁起がいいそうだ。そのおかげで今年に入って、「龍宝宝」の出産ラッシュと伴い、「月嫂」の需要が急増し、給料も跳ね上がっている。北京、上海、深センなどの大都市では、最高月額15000元(約19.5万円)にもなりそうだ。これは医学博士の月収よりも高く、外資系金融機関のローカルスタッフ並みか、それ以上の金額だ。

上海市のある「月嫂」紹介所の「月嫂」賃金のご案内
上海市のある「月嫂」紹介所の「月嫂」賃金のご案内
*催乳師とは、日本の助産師のように母乳マッサージを施術する専門家。催乳師免許は国家労働局の管理監督を受ける国家資格となっている。
(出所):インターネット情報より大和総研(上海)まとめ


なぜ中国で「月嫂」はそんなに人気があるか。これはすでに社会問題として注目されている。

上海においてのアンケートで、目前 上海で産後ケアに対する需要は「非常に大きい」という。「月嫂を雇おうとする」のは43%、「祖父母を含む親族と一緒に産婦と赤ちゃんの面倒を見るつもりだ」のは32%を占めた。「月嫂」を雇う理由について、50%は祖父母が年老いたため、赤ちゃんの世話をする精力がないと、38%は新生児を持つ父母自身が子供の世話をする経験もないし、時間もないと、また、32%の人は、祖父母は育児の観念が時代遅れになって、赤ちゃんの成長によくないという心配があるからだと答えた。

  1. 70年代、80年代に生まれた若い親たちは良好的な教育を受け、先進的な教育理念を持ち、金離れがよく、品質にこだわり、子供に最高のものを与えたいと思っているのだ。
  2. 社会・経済の発展に従って、人々の婚姻、出産、家庭に対する考え方にも大きな変化が現れて、それまでの「早く結婚し早く子を産む」の伝統的な考え方は、だんだんと多くの出産適齢期の人たちに見捨てられ、「遅く結婚し遅く出産する」になり、それにつれて、高齢出産はだんだん社会の普遍的な現象になっている。高齢出産の妊婦たちは体力の低下と体調不良が多くて、他人の助けを必要とするようになるのだ。
  3. 社会的分業の発展につれて、一部の家庭が一般家事労働の家政婦と子育てに関わる家政婦を利用する。一般家事労働の家政婦家は若くて未婚の女性が多くて、育児経験もなく、科学的な育児知識も持っていない。育児経験を持つ家政婦の需要は大きい。


80年代に生まれたベビーブーム世代の結婚適齢期到来により、中国では、新たなベビーブームとなる可能性が高い。中国における幼児産業は規模の大きい、且つ成長率の極めて高い市場となる。第5次全国人口調査の結果によると、中国0-3歳の幼児の数は7000万にも達した。そのうえ、毎年約2500万の新生児を迎える傾向があるようだ。その内、10%の赤ちゃんに「月嫂」が備えられている。つまり、毎年、全国では「月嫂」が約250万人も必要となるということだ。更に、このデータが毎年5%のスピードで増加し続けているという。

「月嫂」市場の見通しは良いものの、「月嫂」業界の現状はあまり楽観的ではない。最近、「月嫂」と雇い主の間の紛争がよく報道された。「月嫂」が赤ちゃんに睡眠薬を飲ませたり、雇い主の財物を盗んだりしたという事件が相次いで発生したという。家政婦の賃金が高いのに、質がよくないという雇い主の声が聞こえた。「月嫂」の学歴が普遍的に低く、年齢が高く、専門性が弱く、サービス意識も欠けている。家政婦派遣会社へのインタビュー及び観察データによると、80%の「月嫂」は都市で失業または定年となった女性労働者で、また一部は農村からきて、一般家事の家政婦から「月嫂」に転職したものだ。専門的な看護学校を卒業し、病院で従業した経験を持っているのは僅か5%しかいなかった。なお、一部の家政婦派遣会社が、利益を得る為に「月嫂」サービスに転向し、大幅な中間マージンを稼ぐために優秀であることを表す「ゴールドプレート」や等級を適当に貼り付けて、人材の玉石混交状態を招いた。

一方、「月嫂」は高い給料をもらっているが、自身の利益と権利を有効的に保障できない。「月嫂」は家政婦紹介所と契約を締結したものの、雇用期間を固定しない。「月嫂」も雇い主も紹介費を節約するため、紹介所を通さず、直接契約することが多くなっている。この場合、雇い主にとって、「月嫂」に関する健康状況や安全面で保証がない。「月嫂」にとって、労災事故の際に、いつも弱者の位置に置かれてしまい、労災に対する損害賠償も請求できない。

とにかく、業界規範が整っていないため、「月嫂」市場が混乱している。「月嫂」業の問題を次のようにまとめた。
  1. 「月嫂」業界に対する専門の政府部門は現時点ではまだ存在していないこと。
  2. 「月嫂」が社会保険制度に加入することができないので、給料の基準、社会保障などに関する法律規定もなく、労災事故の際にも法律に規定された労災に当たらないこと。
  3. 「月嫂」への職業訓練等級評価はその派遣会社が実施し、合格すれば証明書をもらえる。「月嫂」は国家資格ではなくて、国家機関が研修を行わないため、信憑性に欠けていること。


社会転換期における中国は、人々の価値観が大きく変容し、経済急成長による貧富の格差が拡大しつつあり、人々の消費ニーズもますます細分化されている。それにより、たくさんの新たな業界が絶えず生じている。「月嫂」は家政婦業から細分された独立の業界として、全社会の注目を引き続き集めている。「月嫂」業界の持続的かつ健全な発展を確保するため、関連法律・法規の整備、管理監督システムの確立が今後の課題と思う。


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