アジアンインサイト
中国語から中国経済を見る(1)

2011年12月13日

  • 常務理事 金森 俊樹
「国進民退」が進み「裙帯資本主義」に陥るリスク

「裙帯」は、元来「中国風スカート(裙子)の紐(帯)」であるが、二義的には血縁、地縁などの「縁故関係」を意味する。「裙帯資本主義」は、言わば「クローニー資本主義」ということになる。1990年代後半に生じたアジア通貨危機では、タイを始めとする多くのアジア諸国が経済困難に見舞われたが、その際、特に西側経済学者より、その一因として、これら諸国には「クローニー資本主義」の問題があるとの指摘が出された。経済危機の一因となったのかどうかについては疑義が残るが、国の指導層が、その血縁関係にある近親者に様々な便宜を図っているのではないかといったこと自体は、よく指摘されるところだ。

アジア通貨危機で相対的には大きな影響は受けなかった中国においても、同様の問題は以前から指摘されているが、「裙帯資本主義」で表される状況は広範で、なかなか厄介である。中国のある著名な経済学者は、7月4日清華大学で行われた国際経済学会で、中国の改革開放は市場経済化の過程そのものであるが、(1)なお国有部門が、石油・通信・金融・鉄道などの基幹産業で独占的地位を有していること、(2)省や県などの各レベルの地方政府が、土地などの重要資源の配分について大きな権限を持っていること、(3)市場経済を支える法整備が遅れており、各地方政府が恣意的に権限を行使し、経済へのミクロ的な介入を行っていることを指摘し、現状はむしろ市場化が後退し「国進民退」(国有企業が拡大する一方、民営企業が衰退)が進んでいるとする。その上で、政府が過度に関与するような市場経済は国家資本主義の方向に向かい、腐敗を加速させ、最終的には「裙帯資本主義」になってしまうと警告している(7月1日付財新‘中国改革’、5日付第一財網評論)。さすがに、表向き、現状が既に「国家資本主義」、「裙帯資本主義」になっているとまで断定はしていないものの、中国を代表する学者の警鐘としては注目すべきだろう。「国富民窮」、「国強民弱」なども、「国進民退」と合わせ、経済の民営化・市場化が滞っている現状をよく表現している。中国では、本来の市場競争からくる所得格差より、その背後にある公務員、大型国有企業幹部らの灰色所得の問題がより重要であるとの指摘、さらには金融政策も既得権益グループによって左右されてきており、対外的にはともかく、対内的に金融政策の真の独立性が確保されていないなどの指摘も、他の学者等から出されている。中国のクローニー資本主義は、単なる指導層の血縁関係に止まらず、より広範で構造的である。

算(蒜)你狠、逗(豆)你玩,将(姜)你軍」、ネット市場の「無法無天」に見る高物価、物価の乱高下は庶民の怨嗟の的、「尾」効果でインフレは落ち着いたのか。

昨年来、庶民にとっての最大の不満はインフレ、特に生活に直結する肉・野菜等食料品価格の高騰である(したがって、中国政府にとっての最大の政策課題にもなってきた)。2011年上半期の消費者物価指数(CPI)は前年同期比5.4%上昇しているが、内訳を見ると、食品が11.8%増、中でも肉類が19.7%と高い伸びを示している。直近を見ると、9、10、11月と前年同期比で各々6.1%、5.5%、4.2%と鈍化傾向が見られており、前期比では直近11月、久々にマイナス0.2%となった。しかし食料品価格は、11月も前年同期比8.8%(特に肉類・肉製品は19.6%、うち豚肉は26.5%)と、なお庶民からすれば「居高不下」(高止まり)で、物価高へ不満は依然大きい。

こうした状況下で、昨年来、インフレに対する庶民の不満を反映する新語・流行語の類がネット上等で流布している。その中で最も象徴的な表現が、3つの対句になっている次の表現だ。「算你狠(むごいことをする奴だ)」は、算suan を同じ発音である蒜(ニンニク)にかけており、同様に「逗你玩(おまえをからかう)」は、逗douを豆に、「将你軍(おまえを窮地に陥れる)」は、将jiangを姜(しょうが)にかけて、洒落たものだ。何れも、昨年来価格が高騰して、庶民の食卓を直撃した。

「猪堅強(強靭な豚)」は、もともと2008年の四川大地震の際に、成都で瓦礫の下から36日ぶりに生還した豚で、人々はこの豚をこう呼んで、食に供することなく博物館で余生を送らせようとしたものだ。発見された当時はやせ細っていたが、2年後一般にお目見えした時には、丸々と太っていたということで、それを豚肉価格の高騰にかけたものだろう。豚肉は中国の食卓に載ることが多いので、特に不満の種になる。全国畜禽監測指数によると、昨年6月以来、本年6月まで13ヶ月連続で上昇、その間の上昇率は累計で60%を超えている。昨年、価格が低迷する一方、飼料価格を中心に生産コストが上がったため、多くの飼育農家が生産を手控えたことが主因とされるが、供給弾性値の低い豚肉等農産品への投機マネーの流入を許す背景として、マクロ的な過剰流動性の問題があることは明らかだろう。

なお、ニンニク価格は最近に至り暴落している。これには、他の農産品もそうであるが、近年ネット上での取引が急増し、そこで「做多、做空」(ロング買いとショート売り)が繰り返され、一種の「賭博場」と化している面が指摘されている。取引量が「虚高」(実態がないのに、見かけだけ高くなっている)となり、価格の変動も激しくなって、これが現物市場にも影響を及ぼしている。それにもかかわらず、こうしたネット市場は「無法無天」、すなわち、規制する法律がなく、また管理当局がどこかもわからない。豚肉もまた、従来から価格が乱高下する傾向があり、今後供給増から逆に価格が急落する可能性がある(豚肉価格乱高下の現象は「大起大落的猪周期」と称されてきている)。表現は、こうした不安定な価格に庶民が振り回される状況をも揶揄している。

CPIは、少なくとも対前年同期比では、年半ばにとりあえずピークを打ったように見える。ただこれは、比較対象の昨年後半、物価が高騰した「尾」効果(「尾」すなわち年末にかけて、「」そり上がった効果)と呼ばれる面が大きい。中国当局は、年初には今年の物価上昇率として3%以内を目標に掲げ、その後事実上4%以内に抑えることを修正目標にしたが、その達成はほぼ不可能になってきている(1-11月対前年同期比は5.5%)。前年同期比上昇率の鈍化と景気のスローダウン、不動産価格の急激な落ち込み懸念から、むしろ本格的な金融緩和への転換が話題になってきているが、インフレ圧力、庶民の高物価への不満がほんとうに払拭されたのか、中国当局は慎重に見極めることになろう。

「耐克(ナイキ)曲線」型株式への投資は「リスクに耐え、それを克服する投資」

「耐克」は、元来、スポーツ用品メーカー「ナイキ」の中国名で、中国語の発音、nai(耐)ke(克)をあてはめている。スポーツ用品の耐久性を示す点で、意味的にもこうした漢字が適当ということになったのであろう。「耐克曲線」は、ナイキ函数(数学の関数式でその形状がナイキの商標に似ている)から示される曲線で、V字型の回復過程を表す。中国では、株式市場での株価の反転を表現するのによく用いられている。たとえば、2011年5月、深証券取引所が発表した「深交多層次資本市場上市公司2010年報実証分析報告」では、中小板(ボード)や創業板上場の中小・ベンチャー企業が、上場直後業績が一時的に悪化する傾向が多い点に関し、これら企業は業績がピークの時に上場し、その後、管理運営上の問題、将来の戦略ポジションが定まらない中で経営コストだけが上昇するため、こうしたことが生じているが、その潜在成長性を考えると、上場後3-5年以内に耐克曲線型の成長を示すことが特徴だと分析している。7月13日付深商報も、上場後、流通価格がIPO価格を下回る(破発)銘柄が多い最近の市場動向から、上場時ではなく流通株を購入するのもひとつの戦略とする株式コンサルタントの言を紹介しつつ、やはり、特に中小・ベンチャーの株価は、耐克曲線型の回復を示す特徴があり、その分上場直後のリスクは大きいと伝えている。株式市場でも、耐克曲線型のベンチャー株式への投資は、「リスクに耐え、それを克服する」ということであろうか。


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