アジアンインサイト
米国ベストバイの中国全支店閉店

2011年3月22日

  • 大和総研(上海)諮詢有限公司 範 健美
2月22日、米国の家電小売大手のベストバイは、中国の全店舗を突然閉店した。

あまりにも唐突な閉店の知らせを聞き、今後のアフターサービスなどを心配した顧客たちが、店舗の前で数日間に亘り長い列をなす光景が見られた(写真参照)。また、同社の中国人従業員の中には、同社と経済補償金の支給を巡って争っている者もいるという。2006年に上海に旗艦店を開店したばかりのベストバイに何が起こったかのであろうか?何故、米国市場で大成功を収めた同社が、中国においては全店舗閉店に追い込まれるほどの窮境に陥ったのであろうか?以下、その原因を考察してみたい。

【写真】閉店したベストバイの店舗前に並ぶ人たち(2月27日撮影)

(1)中国市場にふさわしいビジネスモデルの欠如
ベストバイは、中国に進出するにあたり、米国で成功を収めたビジネスモデルをそのまま導入した。それは2点に分けて説明できる。1点目は、米国同様中国においても、商品は割引価格ではなく定価で提示し、その一方で、快適なショッピングができる雰囲気作りや手厚いサービスに尽力してきた。来店者が商品を実体験できるサービスなどはその一例である。しかし、中国人は極めて価格に敏感であり、モノを購買する際の値引き交渉は、いまもって日常的な光景である。商品を実体験できるサービスを提供し、いくら商品の良さをアピールしたところで、定価から一歩も譲らなければ(いっさい値引きしなければ)、顧客は国美(GOME)や蘇寧(SUNING)など安めの価格を設定しているローカル系の家電量販店に流れていってしまう。

2点目は、商品の陳列方法である。中国の家電量販店では、メーカー毎に商品が陳列されている(例えばハイアールであれば、商品の種類に関わりなく、同社で生産された全種類の商品がひと塊りに並べられている)。この陳列方法に中国人の消費者は慣れているのだが、ベストバイの場合、商品の種類ごとに陳列を行ってきた(パソコンならパソコン、テレビならテレビと、メーカーの区別なく商品を並べた)。

実は以前、台湾系の燦坤(サンクン)社もベストバイと同様のビジネスモデルを採用していたが、結局うまくいかず撤退している。ベストバイは、この燦坤社の失敗の教訓を活かすことができなかった。中国で事業展開するにあたり、中国の市場調査や中国人消費者の購買心理の把握が不十分であったと言えよう。

(2)高額な運営コスト
国美や蘇寧のような中国ローカルの家電量販店の場合、店舗運営コストを低く抑える仕組みが整っている。具体的には、(1)店舗物件は賃貸で取得し、さらにその店舗スペースを分割して各サプライヤーに貸し付け、サプライヤーから賃貸料を受領している、(2)大半の店員は各サプライヤーから派遣されてくる社員である、(3)コマーシャルにかかる費用の一部をサプライヤーに負担してもらっている、といった点である。一方それとは対照的に、ベストバイの場合、(1)店舗物件は賃貸でなく自社所有である、(2)店員は全て自社の社員である、(3)コマーシャルにかかる費用は全額自社で負担している。このように、ベストバイは、国美や蘇寧と比べはるかに高コスト体質であったと推測される。

(3)高級家電製品に固執し顧客範囲が縮小
ベストバイでは、旗艦店開設当初から、中国ローカルの競合他社との差別化を図るため、高級製品中心の品揃えを行い、顧客ターゲットの中心を富裕層に置いていた。しかし、成長著しい中国にあっても富裕層は限られた存在であり、また富裕層であったとしても、国美や蘇寧で売られている安い製品も購入する。高級家電製品への固執が、ベストバイの顧客範囲を狭めたと言えよう。

(4)規模拡大のペースの遅さ
家電量販店は、価格やサービスだけではなく、規模で勝負する面も多分にある。ベストバイの場合、中国進出からこの度の全店舗閉店までの5年間で、上海・蘇州・杭州での出店は9店舗に止まった。外資系小売企業であるため、店舗開設するためには、省レベルの商務主管部門による初期審査および商務部による最終審査が必要であり、これら一連の手続きには、順調な場合でも約4ヶ月を要する。迅速な規模の拡大を図れなかったことが、ベストバイの成長の足枷になった。

(5)サプライヤーに対するコントロール力が競合他社より弱い
商品が売れない場合、小売業者はサプライヤーに対して強いコントロール力を持てず、スパイラル的に経営が悪化していく。つまり、商品が売れない ⇒ サプライヤーに対するコントロール力が弱くなる ⇒ 低い値段で商品仕入れられなくなる ⇒ 商品の値段が他社より高くなる ⇒ 顧客が他社に流失する ⇒ 商品がますます売れない…このような悪循環に巻き込まれると、市場からの撤退も時間の問題となる。

(6)eコマースに不参入
ベストバイにとっての競合会社は、実店舗を構えて運営している国美、蘇寧のような企業だけではない。eコマースが盛んな中国では、京東商城(www.360buy.com)やNEW EGGなど、インターネットを通して家電販売を展開している企業も複数社あり、実店舗では行えないようなeコマースならではの販促活動を大々的に行っている。公開データによると、京東商城社の昨年の売上高は100億元を越えた。消費者の中には、上述(1)で述べたベストバイの「商品実体験サービス」で先ず商品の実物を見、その場で「買う」と判断しても、ベストバイでは買わず、価格の低いネットショッピングを使って購入する者もいるほどだ。国美や蘇寧もネットショッピングの魅力を感じ、それぞれオンラインショップを開設した。ベストバイは、顧客とのコミュニケーションルートとなっているホームページを持っているにもかかわらず、それをeコマースへ展開させなかったことも敗因のひとつであろう。

ベストバイは、今後、傘下の五星電器(FIVE STAR)ブランドの経営などに専念し、市場再獲得を目指そうとしている。一方、昨年、中国の旺盛な購買意欲に惹かれ、ヨーロッパ系のメディアマーケットや日本のヤマダ電機が中国市場への進出を果たした。これら新規参入した家電量販店が、何を武器に競争の激しい中国家電小売市場で勝負していくのか、注視していきたい。

【参考】ベストバイの中国事業の経緯


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