注目される中国における農業開発区

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中国では全国各地に地元の産業振興を目的とした「開発区」が多く存在する。開発区の具体的な役割は、保税機能や企業の生産支援機能を備え、積極的に外資系企業の誘致を進めるとともに技術蓄積の拠点とするというものだ。その数は国及び省が認定しているもので1,500以上あるが、なかでも農業技術の高度化を目的に設立された唯一の開発区が、陝西省西安の北部に位置する「楊凌農業ハイテク産業モデル地区(以下、楊凌開発区)」である。

陝西省楊凌は中国の農耕文明発祥の地の一つであり、1997年7月、国務院より農業関連のハイテク産業モデル地区として中国で初めて認可された。以降、農業関連の教育施設の拡充が進み、多くの教育者の功績として農業・環境処理の分野で多くの成果が生み出されてきた。具体的には、従来から産学官による農業ハイテク技術産業の育成に力を注ぎ、設立から13年を経た現在では、バイオ製薬、緑色食品(※1)、環境負荷の低い農業資材、品種改良などを柱とする産業構造が構築され、約900社が関係するまでに発展している。
資源に係る循環利用の取り組みを例にとると、楊凌開発区は全国初の循環型経済モデルケースにも指定され、水源ヒートポンプ、汚水処理・中水(※2)の回収・再利用、ゴミの総合処理などのプロジェクトが次々と立ち上げられている。更に、農業廃棄物の再利用も促進されており、「農業資源総合利用プロジェクト推進」の名のもとに国内外から20社以上が参加している。また農村家庭用メタンガス生産プロジェクトも積極的な導入が図られ農村部における環境改善に取り組む姿勢も鮮明だ。
さらに、2008年の三中全会で掲げられた「農業・農村改革の推進」目標を受けた陝西政府による継続的な楊凌の開発方針が、本年1月に国務院から正式に承認され、今後は同開発区の発展に一層弾みがつくことが期待される。実際、具体的な推進テーマとして、「農村の情報化」、「農業の現代化」、「農業技術の高度化」、「農村金融の浸透」、「国外企業との合作交流」などがあげられており、目下これらテーマに関する個別の政策立案が陝西省内で進められているようだ。

近年、日本の技術・ノウハウを基に、食の安全性や環境負荷の低減などを切り口として、中国市場の開拓を進める動きが、食品、農業資材、農機具など各種メーカーを中心に販売や一部の生産分野で展開されてきた。今後はそれに加え、技術を有する日系企業や研究機関が、中国現地で実験・検証を行い、実際に事業を立ち上げる動きがでてこよう。その際、農業技術の蓄積が進んだ楊凌開発区で事業展開を図ることは有力な選択肢の一つとなろう。13年に亘る技術・ノウハウの蓄積を今こそ活用すべきと考えて止まない。

(※1) 緑色食品とは、中国農業部傘下の「中国緑色食品発展センター」の定めた生産規定に則り、化学肥料・農薬の使用を制限された条件下で栽培された農産物をさす。
(※2) 雨水や排水を再生処理して冷却用水、河川や用水路、植栽散水用水などに再利用する水。下水処理により浄化された再生水は、貴重な水資源として認知されており、再処理施設の簡易化が可能なことから、コスト面、環境負荷の低減も期待されている。


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